みなさん、こんにちは。ついにアル天も20回を迎えてしまいました。さて、最終回が果たして何回になるか、お一つ、賭けますか?


*** アルプスは今日もお天気 ***

第20話 9月の花の巻


 初めてのスイス旅行への出発からさかのぼること2カ月余り、すっかり頭の中がスイス一色となっていた私は、ある晩夢を見た。夢の中でメンリッヒェンに登ったのだ。
 今回の旅行では天候の関係でクライネシャイデックからメンリッヒェンへ歩いて行くことになったが、当初の予定ではその前日にグリンデルワルトからゴンドラでメンリッヒェンへ登るはずだった。そんなわけで夢の中でも私はちゃんとそのルートを通っているのである。ちゃんとグルント駅で(見たこともないのに)ゴンドラに乗り換えているのだから、自分でも気持ちが悪い。
 とにかく気がつくと私はメンリッヒェンに立っていた。アイガーとメンヒとユングフラウが見える。でも何か変だ。ゆがんでいるのだ。アイガーなんてマッターホルンなみに細い。まあ、夢の中なのでこんなもんだろう。それよりちゃんと手前にチュッゲンが見えていることの方が問題だぞ(夢なのに)。

 さてさて、本物の実物はどうだったでしょう!!

 実際に歩きだした私たちは、多くの高山植物を見ることができた。9月ということで、もしかしたらほとんど咲いていないのではないかと危惧していたが、まったくそんなことはなかった。ハイキングコースの端には、いろいろな花が咲いていた。残念ながらアルプス3大名花と言われるエーデルワイス、エンツィアン、アルペンローゼの季節は完全に終わっていたが、カンパニュラ、クリサンセマム、アスターなんかはたくさん見ることができる。ぷくっとしたほおずきのような袋の先に花弁のついているタウベンクロプフや、ピンクのマツムシソウといった感じのヴァルト・ヴィトヴェンブルーメ、どう見てもただのタンポポにしか見えない花もある。俗に言うエンツィアンことゲンチアナ・アルピナはさすがに見なかったが、その仲間であるリンドウ科の花はたくさん咲いていた。学名で「ゲンチアナ」が頭につくタイプだ。濃い青や紫で星のように花弁を広げたリンドウや、ピンクに近い薄紫のゲンチアナ・ラモサも咲いている。
 全体としては、紫系と白系の花が多く、黄色が少ないので、少し地味かもしれない。写真と記憶を頼りに調べているので、誤りもあるかもしれないけれど。
 ちなみに、7月に北海道に行った実家の両親が、ちゃっかり野生のエーデルワイス(この場合はレブンウスユキソウだが)を写真に撮っていたのはちょっと悔しかった。本場のアルプスに行った我々がエーデルワイスを見ることはついになかったのに・・・

 コースは右手が山の斜面、左手ががけっぷちというシチュエーションである。左手の足元に撮ってくれといわんばかりに紫の花が群生している。グロッケンブルーメと呼ばれるカンパニュラの一種だ。ダンナは座り込んで一眼レフをかまえた。そのようすが危なっかしかったらしく、通りすがりのとっても体重の重そうなオバサマが「デーンジャラース!」と両手を広げて笑いながらおっしゃった。

 ところで私が常々不思議に思っていたことの一つがシュレックホルンの位置なのだ。ベルナーオーバーラントの図でみると、シュレックホルンはアイガーとヴェッターホルンの間にあるが、ある写真では確かにアイガーとヴェッターホルンの間に顔を出し、別の写真ではアイガーとヴェッターホルンが並んでいてシュレックホルンは影も形もない。頭で考えればシュレックホルンは確かにその二つの山の間にあって、角度によってはアイガーが邪魔で見えないだけなのだとわかるのだが、なにしろどの写真でもヴェッターホルンの角度はおんなじように見えるもので、やっぱり不思議でしかたなかったのだ。
 これはこのハイキングコースを歩いて、どういう角度でどの山がはえているのかよーく理解できた。スタート地点ではアイガーの隣はヴェッターホルンだったが、しばらく歩いていくとやがてシャイなシュレックホルンがアイガーの後ろから姿を現した。なるほどね、こういうしくみになっていたのか。

 道は大きく左へカーブした。カーブの途中の道から少しはずれた先端部分にベンチがあった。まるで私たちのためにある特等席のようではないか。そのベンチに座ると、谷を隔てて真っ正面がアイガー北壁だ。谷は一面白い雲でおおわれていてまるで私たちと山の間には誰もいないようだ。ここでお弁当を広げることにしよう。
 ちよっと寒かったが、ものすごくぜいたくなランチだった。きっとこんなことは二度とない。

 さらに20分ほど歩くと終点についた。手前にグリンデルワルトからのゴンドラ乗り場が、少し先にウェンゲンからのロープウェイ乗り場がある。
 振り返ると再び3山が並んでそびえていた。うーん、確かにチュッゲンが邪魔なのかも。さらに雲がかかってアイガーをのぞいて頂上がどこだかもわからない。でも相変わらずの迫力だ。4千メートル級の山々の持つ力はすごい。
 ゴンドラ乗り場に併設されたレストランのベンチに腰をおろして私は一言。
「あのさー、メンリッヒェンの頂上まで行ってみたいんだけど」
 行ったことのある方はご存知だと思うが、実は今いる地点はメンリッヒェンの頂上ではない。鞍部というか、ちょうど一番低くなったあたりなのだ。頂上はさらにチュッゲンと反対側を20分ほど登ったあたりにある。
 もちろん、ダンナはあきれかえった。

次回は、独りでメンリッヒェンの頂上を目指す、です。

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