ポートダグラス楽園日誌2004-4

4.マリーバ三昧の一日


 四日目 7月17日(土)


 夜が明けていないのではないかと思う薄暗さだった。
 昨日、一昨日と、夜明け前から活動していたので、今朝くらいはゆっくり起きたいと思っていた。
 カーテンを開けると空は一面灰色の雲に覆われていた。
 本当に今のケアンズは乾期まっただ中なのだろうか。今にも降ってきそうな不穏な空だ。

 テーブルにはパンとミルクとジャムとシリアル。
 ミルクの大きなボトルがいかにもオーストラリアらしい。

 支度を終えて車に乗ろうとすれば、いつの間にか雨が降っている。
 モーニングシャワーかしら。すぐにやめばいいけど。
 ポートダグラスを出てケアンズと反対の方角に曲がる。
 今日の目的地マリーバは、昨日熱気球に乗った場所だ。
 熱気球に乗ったけれどもマリーバをゆっくり見て回ったわけではないし、ルートも昨日は海側からのアクセス。ポートダグラスからキャプテンクックハイウェイを南下し、スミスフィールドからツアーバスで山を登りキュランダ経由マリーバだった。
 今日は海ではなく山の方からアクセスする。
 ルートはまずキャプテンクックハイウェイを北上、約10キロ先にある隣町モスマンの手前で左折、33キロ先のMt.Molloyマウント・モーロイを経由して、さらに42キロほど一本道を行けば草原の町マリーバに到着する。
 この道は初めてだ。
 初めての道は何だかわくわくする。

 モスマン手前の曲がり角までは、一昨日モスマン渓谷に行くときにも通った道。
 だが一昨日と違って青空は見えない。
 道の両側は長く延びたサトウキビの畑が続き、ときおり収穫を終えた丸坊主の畑も。
 雨はいつの間にか上がったが、まだ雲は低くたれ込めている。
 マリーバは晴れているだろうか・・・と思ってふと車窓を見やれば、

「あっ、虹」

 サトウキビ畑と山の間に完璧な弧を描いて虹がかかっていた。
 両端があまりにくっきりしているので、まるでその場所に行けば虹の根元が見られそうだった。
 虹の根元には宝物が埋まっている。そんなおとぎ話を聞いたことを思い出した。

 マウント・モーロイ方面への表示に従って左折すると、サトウキビ運搬列車の線路も一緒に曲がるが、収穫を積む黄色いコンテナ車が数台停まっているだけで、すぐ線路は途絶える。
 そしてゆるやかなカーブが始まり、それに沿って進んでいくとだんだんそのカーブは左右にきつくなり、いつの間にか車は急な九十九折りの道を息を切らせながら上っていた。
 スミスフィールドとキュランダを結ぶ激しいワインディングロードと同じくらい。
 結局海沿いから高原に至るには、どこかしらで山を登らねばならないのだ。
 森の中の山道で見通しが悪い。

 右手に二つほどルックアウトがある。
 実はここまでは去年も来たことがある。
 このルックアウトから下界を見てみようとポートダグラスから登ってきたが、あいにく今日と同じ雲と雨。どうもこの展望台には祟られている。
 去年も今年も今のところは何から何まで天気には恵まれているのに、唯一ここだけは雨で何も見えないのだ。

 道を上り詰めると、キャンプ場とガソリンスタンドが見えた。
 ここから一気に見通しがよくなる。
 おや、正面に見えるのは雲の切れ目と青い空。
 大陸らしい真っ直ぐな道で、行く手には晴れ間。
 草原の中を走る快適な道。ゆるやかなアップダウン。
 マウント・モーロイは山の上というわけではなく、割に平坦な場所にあった。ごく小さな集落で、キャンプ場や小さな店がぽつぽつあるだけ。ここの分岐を北西に取れば、長いアウトバックの旅路の末、ヨーク岬の先の方、辺境のWeipaに至るだろう。いつかそんな旅もしてみたい。

 道なりに南下すれば、マリーバへの一本道だ。
 車窓から見える景色は、幹の白いユーカリ、点在する茶色い蟻塚、乾期の風に揺れている木々の、根元から1メートルぐらいは黒く焼けこげたようにブッシュファイアの痕跡。
 そんな景色がもう、果てしなく続く。

 蟻塚も見飽きた頃、右手に青い大きな湖が見えてくる。
 ミッチェル湖だ。
 広い平坦な湿原地帯といった感じで、あちらこちら浅瀬があるので陸地と湖の境界線がはっきりしない。
 こんなに綺麗な景色なのに、人っ子一人いない。
 湖を見ながら更に少し進むとびっくりするようなものが見えてきた。
 湖の中に馬がいる。

 それも一頭じゃない。栗毛色の馬たちが湖に棲む白い水鳥たちに混じって何頭も何頭も湖の中にいる。
 腹の辺りから、深いところにいる馬は胸元まで水にすっぽりつかって、あの馬たちはいったい何をしているのだろう。
 こうべを垂れて、何か無心にはんでいるようにも見える。

 この景色を珍しいと思ったのは私だけではないらしく、私たちの前を走っていた車からも金髪のお姉さんが降りてきて、夢中で写真を撮っていた。

 馬といえば草原にいるものとばかり思っていた。
 オーストラリアは湖で馬を飼うのか?
 この広い大陸にはびっくりすることばかり。



 マリーバに至る道にはときおり看板があって、マリーバのことを300日もサンシャインDayと書かれている。
 道理で。
 ポートダグラスの朝の雨が嘘のように、この地では大地が乾いている。
 去年、どきどき夜行性動物探検ツアーでマリーバを訪れたとき小雨がぱらついていたのは、一年365日のうち、残る65日だったのだろう。

 マリーバの手前にBiboohraという小さな集落がある。
 ここを東へ行けばゴールデン・ドロップというマンゴーワインのワイナリーがあり、西へ行けばマリーバ・ウェットランドに着く。
 時間があれば、今日はその両方に立ち寄ってみようと思っているが、まずは直進してロデオ大会の会場を探すとしよう。

 町に入って最初の曲がり角、ちょうど道沿いにゴルフ場が見えたら右折する。
 このゴルフ場は前に沢山の野生カンガルーを目撃したところだ。今朝はカンガルーの姿はないようだ。
 道を曲がると今度は墓地が見える。
 ロデオ大会の会場はこちらといった表示も何も無いので、やはり昨日、熱気球ツアーの時に場所を聞いておいて良かった。
 民家もなく心配になったが、前を走る車が馬を乗せた荷車を引いている。この先に会場があるのは間違いないようだ。

 馬を乗せた車が右へ曲がった。
 入り口があり、係員がいる。
 後をついて曲がってみると、ここは出場者専用の出入り口だった。一般客はさらに先に入り口があるそうだ。
 もう奥に、遊園地の観覧車が見えている。



 マリーバのロデオに興味を持ったのはロンリープラネットのガイドブックに、「7月頃にこの町に来たら、マリーバロデオ大会を見逃さないようにしよう」という一言があったからだ。
 2004年のロデオ大会は7月17~18日。特に17日が実際の競技がメインで行われる。ランチやカントリーミュージック・パフォーマンスを挟みながら、なんと朝の8時から夜中の2時過ぎまでぶっとおしだ。カウボーイはタフだねぇ。

 入場料は土曜日は大人20ドル、子供(5~16歳)6ドル。日曜日は大人料金は3ドル引きになる。
 駐車場は広々として、ふと足下を見ると大理石のかけらがあちこちに落ちている。そういえばマリーバからアウトバックを136キロも走れば、大理石採掘場のあるチラゴーだ。いつもチラゴーには行きたいと思いつつ、まだ願いは叶っていない。

 マリーバのロデオ大会は、ロデオがメインだが内容は地元のお祭り騒ぎであり、移動遊園地の会場でもある。このあと旅行最終日にケアンズでケアンズショウというイベントに遊びに行こうと思っているが、きっとそれはマリーバのこれを大規模にしたようなものなのだろう。
 会場は8時からオープンしていて時計はもう10時を回っているのに、どういうわけか遊園地はまだほとんど動いていない。
 日本じゃ考えられない。
 まだ半分準備中なのだ。
 たった二日間しかないのに、初日の午前中がまだ準備中ではいったいいつ儲けるのか?
 どれもみな、昨夜か今朝機械を搬入したという感じで、空気を入れて膨らませる巨大滑り台はまだしぼんだままだし、ぐるぐる回る絶叫遊具はぱちんぱちんと人の乗る乗り物を回るバーにくくりつけているところだ(というか、こんないい加減な乗り物が本当に人を乗せて動いていいものか?)
 早めに準備を終えたライドも、料金係が暇そうに欠伸しているばかり、
 出店や遊具のイルミネーション輝く夜がメインなのかもしれないが、オージーはいたって呑気だ。

 中央に大きなトラックがあり、ここがロデオの会場。
 手作りコロセウムよろしく、階段状に観覧席が作られており、炎天下、ぱらぱらと応援している人たちがいる。
 そのほか、トラック(競技場)の横にトラック(車)を乗り付けて、荷台に屋根を掛けてそこに寝そべりながら観覧している人なんかもいて、カントリー色豊かだ。

 競技場の奥に四色の扉があり、そこから名前を呼ばれた出場者が暴れ牛に乗って飛び出してきた。
 会場が沸き上がる。
 がんばれ!!
 がんばれ!!
 振り落とされるまでほんの数秒なのだが、健闘すれば拍手喝采。

 カウボーイ、カウガール、ジュニアカウボーイ、ジュニアカウガール、それぞれのチャンピオンを決める大会だ。
 カウボーイによる暴れ牛の騎乗が終わると、次はカウガールやジュニアカウガールたちが軽やかにトラックを駆け回り始めた。

 しばらく見た後、パパは席から降りて言った。
 何か乗り物に乗ろうか。

 選んだのはぶつかり合いながらぐるぐる回ることのできるゴーカートだった。
 カナはパパと、レナはママと車に乗り込む。
 他の車にもそれぞれ並んでいた大人や子供が乗り込んだ。
 シートベルトを掛けてさあスタート。
 レナに運転させようとしたがアクセルに足が届かない。仕方ないから助手席から足を延ばしてアクセルを踏んだ。ハンドルだけでも握らせようとしたが怖がって握らない。仕方ないからこちらも助手席からつかんだ。
 最初は勝手が分からずみんなでもつれる。係りの人が跳んできて、一台一台を引き離し「GO GO」とかけ声を掛けてくれる。
 走る走る。回る回る。
 ぎゅんぎゅん、ききーっ。つい大人でも夢中になる。

 車が動かなくなるまでずいぶん長く感じた。
 終わって大満足。面白かった。

 他に乗り物は・・・というと、レナにはさっきから気になって仕方ないものがある。乗りたくて、パパがタバコを吸いに離れたときもずっと柵にしがみついて見ていたのだ。
 それは、ポニーライド。

 さっきの乗り場に戻ってみると、ちょうど金髪の小さな姉妹がポニーに乗っているところだった。
 イタリアンかスパニッシュ系の背の低いおばちゃんが、二匹のたづなを持ち先導している。スーツを着た姉妹の母親がくっついて回り、その様子をカメラで撮影している。
 狭いテントの下をぐるぐると回るだけだけど、楽しそうだよ。
「レナ、やる?」
「やる~」

 一仕事終えたおばちゃんが戻ってきて、カナとレナに聞く。
「アーユー、カウガール?」
「yesって言うんだよ」
「イエース」

 しかしいざ乗るとなるとやっぱり後込みするレナ。
 カナはさっさとポニーにまたがらせてもらい満面の笑み。
「やっぱり怖いよ」
「大丈夫だよ、大人しいお馬さんだよ」
 カナが行ってしまいそうになって、レナも焦った。
「・・・乗る」
 まだ怖じ気づいているのを、乗せてしまう。
 乗ってしまえば誰より嬉しそうな顔。
 さっきまで本物のカウガールを見ていたんだから、ちょっと自分たちだってカウガールを気取ってみたいんだね。

 ランチは競技場の目の前で芝生に座って。
 バーガーとポテトをテイクアウト。目の前を行き来するカウガールたちの活躍を見ながら。
 買ってきたパパは、売っているおじちゃんに「アニー? アニー?」と聞かれてさっぱり判らなかったと言っていた。何のことかと思ったら「オニオンを入れるか?」と聞かれたらしい。
 大人の女性はカウボーイハットを目深に被って格好いい。ジュニアはハットの代わりに白いヘルメット。みんな生まれたときから馬に乗ってでもいるかのよう。
 カナとレナはいきなり横でカウガールごっこをはじめた。なんのことはない、カナが馬になってレナがまたがっている。おお、暴れ馬だ。レナ、振り落とされないように。

 ショウバッグも売っていた。メタさんやミミミさんにお勧めと聞いたのでカナとレナ二人にそれぞれ買い求めることにする。
 10ドルから25ドルくらいのものが中心で、キャラクターものの福袋のような感じ。中身は壁に貼ってあるので、同じ物が入っている。
 ディズニープリンセスのも可愛いけど、やっぱりパワーパフガールズのがいいかな。

 昼過ぎになってようやく準備の遅れていたライドも動き出した。どれも混雑して乗れないというものはなく、がらがらで客待ちをしている。
 観覧車は小さいが、檻に屋根がついているようなシンプルなもので、ぐるぐるとかなりの速度で回っている。
 絶叫コースター系は人が乗っているときには動いているが、乗る人もまばらなので止まっている時間の方が長い。
 そろそろ帰ることにしよう。
 帰りがけにポニーライドをのぞいたら、そこだけ沢山人がいた。小さい子供たちがわくわくと順番待ちをしている。みんな本物のカウボーイ、カウガールになりたいのだ。



 じりじりと照りつける日差しの下、駐車場から車を出すと、出入り口の係員が手にスタンプを押そうかと問いかけた。
 再入場するときの証明のスタンプだ。
 いらないよと伝えて車を走らせた。

 今日のプランで外せないと思っていたのはこのロデオ大会とグラナイトゴージだ。
 グラナイト渓谷には野生のロックワラビーたちがいて餌付けすることができるのだが、夜行性なので日中よりは夕方の方がいいだろう。まだ時間がある。この後はマリーバ・ウェットランドに行ってみよう。

 マリーバ・ウェットランドは2,400ヘクタールに及ぶ広大な環境保護地区で、湖沼地帯を中心に、散策路などがある。
 有料のビジターセンターがあり、カヌーやボートで湿原を回ることができる。

 行くまでここについてからどうしようかと悩んでいた。
 ウェットランドに興味はあるが、カヌーは経験がないし、ボートでガイドによる説明を聞いても英語ではほとんど理解できないだろう。
 でも野鳥の楽園と言われるくらいなら、周辺をバードウォッチングするだけでもいいのではないか。それとも子供たちは嫌だと言うだろうか。

 悩むまでも無かった。
 ロデオ大会で興奮した子供たちは、Biboohraまで戻る間に相次いで寝入ってしまったのだ。

 寝ちゃったなら、何もできないまでも後ろで騒ぐこともないからとりあえず行ってみるか。

 さっきも通ったBiboohraで西へ曲がる。ウェットランドまで7キロという表示有り。
 7キロとは意外に離れているんだと思うとともに、車なら数分だろうとたかをくくれば、すぐに舗装路は乾いたダートコースになった。
 道の両側にはサトウキビ。
 それからユーカリ林に変わる。
 土煙を上げてアウトバックをどこまでも走っていく感じ。
 途中にゲートがあり、開かれている。
 その先は益々ドライなサバンナ地区。
 大小さまざまな蟻塚がそれこそ数え切れないほどある。

 真っ直ぐだった道が、急なカーブを描いて左に曲がれば、正面に沼地。
 そしてすぐに駐車場だった。

 車が一台停まっている。
 他には何もない。
 いや、ユーカリ林の向こうに大きなラグーンが広がっているようだ。
 でもこれからどうしよう。
 後部座席では子供たちが寝たままだから置いて行くわけにはいかない。

 逡巡していると、ちょっと国連のアナン事務総長に似たビジターセンターの職員が通りかかった。
「ビジターセンターはすぐそこだよ。地図もあるよ」と教えてくれたが、パパが車の中で子供たちが寝ているんだと説明したら、それは残念と足早に行ってしまった。



 パパがどうせだからビジターセンターに一人で行ってくればと言った。
 せっかくここまで来たんだから、ビジターセンターはともかく、目の前のラグーンは近くで見てみたい。
「じゃちょっと様子を見てくる」
 子供たちの番をパパに頼んで、ユーカリの小径を行くことにした。

 しばらく歩くとClancy's Lagoon Visitor Centreのログハウスが見えてきた。
 ビジターセンターは大人8ドル、子供5ドルと有料なので、まずは入らずにラグーンに近づいてみる。

 蓮の葉が浮かぶ広大な湿地帯に、沢山の鳥たちがいた。
 何があるわけでもなく、ただひたすら湿原が広がっている。ラグーンの奥にはまたユーカリ林が続き、あたりは鳥の声しかしない。

 10人乗りぐらいの白いボートが対岸からビジターセンターに近づいてきた。接岸すると小さい子供を連れた家族連れが降りていくのが見えた。
 英語がぺらぺらだったら我が家もボートに乗せてもらうのに。
 早口の一方的な説明がまるで理解できないままツアーが終わってしまう寂しさは、昔、ディンツリーとケープトリビュレーションのツアーで実感したことがある。当時は4WD車で熱帯雨林へ向かうようなツアーは英語対応しか無かったのだ。

 ラグーンに沿って遊歩道がある。
 ちょっと歩いてみると、ちょうど目の前の枝に驚くほど絵になる大きな鳥が一羽とまっていた。黒くて首が長くくちばしは黄色い。
 何という名前の水鳥だろう。

 その後もう一度ビジターセンターをのぞいたら、中には誰もいなかった。
 テラス席があり、軽食などとれるようになっているらしい。

 車のところに戻ると、カナとレナはまだぐっすり寝ていた。レナはともかく、車が停まるとだいたいカナはすぐ起きるのに珍しいこともある。
 交代でパパも散策に行った。
 やはりラグーンでその鳥を見て、
「撮って撮ってと言わんばかりにポーズを取っていたぞ」と教えてくれた。

 砂煙を上げて、再びもとの道を戻る。
 時々、対向車がある。
 この先はウェットランドしか無いのだから、ちらほらと訪問者があるということなのだろう。
 もう少し子供が大きくなって、もしまたここに来る機会があったら、カヌーに乗って湿原を回ってみたい。あの鳥たちはきっと近づいても逃げないのではないだろうか。



 子供たちがまだ寝ているのだから、今度はマンゴーワイナリーに行ってみよう。
 ここは去年アサートンをドライブしたときにも、道沿いに大きな看板があって気になっていたのだ。ゴールデン・ドロップと書かれた滴とワインの瓶のデザインで、トロピカルフルーツのワインってどんな味がするのだろうと思った。

 Biboohraまで戻り今度は東へ折れてみると、ちょうど曲がり角のところにくちばしの長いユーモラスな鳥が二羽いた。
 写真を撮ろうと追いかけたら、てってこと走って飛んで逃げてしまった。

 マリーバはサトウキビ、ピーナッツ、コーヒー、タバコ、そしてマンゴーなどのフルーツも生産している。ここでワインにしているのはケンジントンレッドという品種のマンゴーだ。
 道沿いにマンゴーの木が等間隔に植えられているのだが、幾何学模様のように寸分狂いなく並んでいる様子はフランス庭園のようだ。
 やがて左手にゲートがあり、Golden Pride Wineriesと書かれていた。
 入ると正面に駐車場。

 パパがまた、一人で行っておいでと言う。
 後部座席で「つまんない」だの「お腹いたい(車酔い?)」だのと1分と黙っていない子供たちが寝ていると、ドライブ中の大人たちは精神衛生上楽なのだが、どこかで車を停めると必ず見張り番が一人必要になってくる。

 きょろきょろと辺りを見回しながら、ガレージのような建物の中に入っていくと、瓶詰め工場のライン機械のようなものがむき出しで置いてある。今はマンゴーの季節ではないから、動いていないのだろうか。
 さらに進むと団体が食事をできるようなちょっとしたスペースがあり、その隣の部屋のスライドドアが半分開いていた。
 中から賑やかな笑い声が聞こえる。
 そっとのぞき込むと奥に商品が陳列してあるのが見えた。
 おそるおそる入ってみる。
 部屋の右手前に冷蔵庫があり、その前にワイナリーの奥さんとおぼしい方が立っていた。その前の丸椅子に年輩のご夫婦が座ってテイスティングしている。さらにほかに二人ほど後ろに立ってやっぱりグラスを手にしている。みんな半分酔っているのか陽気におしゃべりしていた。

 えーっと、どうやって試飲させてもらえばいいんだろう。
 奥の商品棚の方に行って、これを下さいとか言うのは簡単そうだけど、どうせなら何種類かあるワインをいろいろ味見してみたいじゃない。
 奥さんが、ドライ、ミディアム、スイートとあるけどと説明してくれる。
 全部飲んでみたいって言うには・・・。
 とりあえず「ドライ プリーズ」と言ったら、運転は大丈夫なの?と聞き返されたらしい。言われた意味を考えているうちに、後から入ってきた男性が、パーキングに彼女のハズバンドがいたから大丈夫と笑って答えてくれた。
 
 奥さんは冷蔵庫を開けて瓶を取り出し小さなグラスについでくれた。
 いい匂い。
 ふわっとマンゴーの香り。
 味もドライと言っても甘みが少しある。軽くて飲みやすい。
 美味しい美味しい。
 次はミディアム。
 マンゴーの香りが強くなる。
 味もフルーティさが増して、ジュースみたい。
 ラストはスイート。
 マンゴーの香りはくらくらくるようだ。
 甘ったるいワインみたいに飲みにくいかと思ったが、意外にさわやか。デザートに飲めるようなワインだ。

 一番マンゴーらしさがあるのはスイートだろう。
 でも自分が食事どきに飲むならやっぱりドライだな。

 ドライのフルボトルを一本買い求めた。
 25ドルだった。
 棚には他にもライム、レモン、マンダリンなどのリキュールが並んでいた。

 駐車場に戻るとカナが目を覚ましていた。
 早速「つまらない~」攻撃。
 まあそりゃ、子供にはワイン工場の駐車場は面白くないだろう。
「これから面白いところへ行くよ。ロックワラビーのいるところ」



 グラナイトゴージ(グラナイト渓谷)は、絶滅寸前の希少種ワラビー、マリーバロックワラビーが生息していることで有名だ。
 小柄でフレンドリーなこのワラビーたちは、花崗岩の岩場で暮らし、観光客の撒く餌を食べて細々と生き延びている。

 日本人相手の野生動物ウォッチングツアーは、目玉の一つとして必ずここの餌付けを挙げ、例に漏れず私たちも去年はDOKI DOKI Tours主催するドキドキ夜行性動物探検ツアーで初めて渓谷を訪れた。
 霧雨の降る中岩場へ向かえば、小さなワラビーたちがわらわらと寄ってきた。ツアー会社が配る餌は一人ほんの一握り。あげ終わってしまえばそれで終わり。
 そしてゆっくり可愛らしいワラビーの仕草を見ようと思っても、ちょうど一握りの餌をあげ終わったあたりでツアーガイドは手を叩いて参加者たちを急かし、追い立てるように次へ向かわせる。

 あまりの慌ただしさに、フラストレーションもたまった。
 カモノハシは見つけられなくてもいいから、子供たちのためにももう少しグラナイトの岩場に留まりたいと思った。

 だから今年こそはグラナイトゴージでゆっくり厭きるまで餌付けしようと目論んでいた。

 レンタカー会社に借りた地図では、グラナイトゴージに向かう道は二本あった。
 一本は先ほどのロデオ大会会場を更に先へ10キロ以上行ったところ、もう一本はマリーバの中心街を曲がるようになっている。
 パパはロデオ会場の道へと車を走らせた。
 やっぱり午後になっても今日のマリーバ・ゴルフ場には野生カンガルーはいなかった。

 墓地の横を通り、ロデオ会場を過ぎ、さらに先へと進むと大地がオレンジ色にむきだしになっている。
 真っ直ぐな一本道。どこへ続くのだろう。
 マリーバは空が広い。
 途中、道の両側に大きな丸い岩のごろごろした場所があった。グラナイト・クリークと表示がある。
 渓谷への曲がり角がどこにあるのか判らないが、とにかく道を外れてこの岩を辿っていけば、あのグラナイトゴージにつくのは間違いないと思われた。

 しかし、行けども行けども渓谷に至ると思われる曲がり角がない。
 地図に記された大まかな距離は既に過ぎているはず。
 見落としたか。
 太陽はまだぎらぎらと輝いているが、なんとなく日差しが弱くなってきたような気がする。
 冬の日は短い。急がなくては。

 引き返して走るが、やはりそれらしい場所はない。
 距離から考えて、ここしかないと思われる場所で停まってみた。
 ・・・確かに細い脇道はあるけど、通り抜け不可の表示がある。
 本当にここだろうか。

 とりあえず車を進める。どう見ても私道のような細く曲がった道だ。
 やがて農場の片隅みたいな場所に出た。
 道はダートになってさらに曲がっているが、再びそこに進入禁止と通り抜け不可の手書きの立て看板がある。犬も吠えている。
 仕方ない、引き返そう。



 15キロの道を逆戻り。またまたロデオ会場の横を通り、墓地を過ぎ、ゴルフ場に出た。相変わらずカンガルーの姿はない。野生カンガルーがゴルフ場に来るのは季節的なものなのだろうか。それとも農薬でも散布したのか。農薬を散布した後は、カンガルーは姿を現さないと聞いている。

 そういえば、観光用の簡易な地図には、こちらの道ではなくメインストリートの中央から曲がってグラナイトゴージに行くよう載っていたし、前に夜行性動物探検ツアーで行ったときも、確かいったん町中を通過した。
 きっとその道が正解なのだ。

 ゴルフ場の角で曲がってマリーバのメインストリートに入ると、すぐに変形ラウンドアバウトがひとつあり、更に進むともう少し大きなラウンドアバウトがある。
 ここがマリーバの中心で、もっと行くと直ぐに町を抜けてしまう。
 中心部のラウンドアバウトで右折。ちょっと行くとすぐにもう一つラウンドアバウトがある。そこを左斜め前方に入ると、そこはChewkoロード。Chewkoという集落に繋がっている。
 道なりにChewkoロードを進めば、町を抜けてすぐに郊外。
 その二ヶ所の曲がり角には小さいながら「Granite Gorge Nature Park →」の表示有り。今度こそグラナイトゴージに着くはずだ。

 前方に大岩がごろごろした丘など見える。グラナイトゴージもそうだけど、この辺りの岩は特徴がある。
 ふと、ブラックマウンテンのことを思い出した。
 ケープトリビュレーションよりもっと北にあるクックタウンへ向かう途中、ブラックマウンテンという山があるという。
 もちろん実物を見たことはない。写真で見ただけだが、ちょうど今目の前で見ている丘の岩を、全部黒一色に染めたような不気味な景観だった。

 さてしばらく走るとPagliettaロードという脇道が現れる。ここを右に曲がるのが最後だ。
 サバンナを行くような道はラストでダートになり、ああこの辺り覚えているなと思ったら、グラナイトゴージに着いていた。
 去年はあのダートになった辺りで笑いカワセミことクッカバラを目撃したのだ。

 正面に見覚えのあるパーキングがあり、左手にキャンプエリアがある。
 時計を見ると二時半だった。
 車を停めると、管理している年輩の男性が近寄ってきて入場料を徴収した。餌もいるかと聞く。いや、餌は昨日、レインフォレステーションで調達してある。
 餌付けは大人5ドル、子供1.5ドル、家族は12ドルとなっている。ガイドブックでは一人2ドルと書いてあったから、えらく値上がりしている。そのかわり、今まで現地では手に入らなかったと聞いていたワラビーの餌も今は1ドル出せば売ってくれるようだ。

 パパがお金を払っている間に、子供たちは管理棟の側にいる二羽のロリキートを発見した。
 大喜びで駆け寄る。
 去年ツアーで来たときは、ロックワラビーの餌付けの後、この辺でジュースとラミントンケーキが出た。そのとき管理人の奥さん(こちらは若い、先ほどの男性の娘さん?)がレインボーロリキートと違う種類のライムカラーのロリキートをカナとレナの肩に乗せてくれた。あのときのロリキートだろうか。

 可愛い、可愛いと二人が騒いでいると、あのときの管理人の奥さんが現れ、一羽のレインボーロリキートをカナの帽子の上に乗せてくれた。
 カナ、ちょっと緊張。
 でも凄く嬉しそう。
「レナもレナも」と妹が騒げば、今度は奥さんはレナの腕に別のレインボーロリキートをとまらせてくれた。ロリキートはちょこちょこと彼女の腕を歩いて登り、肩に乗り頬をすりよせ、そのまま帽子によじ登った。
 二人とも危なっかしく、帽子にカラフルなロリキートを乗せてご満悦。

 奥さんはさらに面白いものを見せてあげようと、私たちをいざなった。



 建物の裏手に大きな檻があり、中のバーに地味な色のずんぐりむっくりした鳥がとまっていた。
 結構大きい。
 そしていかにも頑固そうな目つきをしている。
 Papuan Frogmouthと表示がある。
 Frogmouth? がま口?と思ったら、奥さんが「Yotaka」と和名を教えてくれた。
 宮沢賢治の「よだかの星」に出てくる醜い鳥、「よだか」のことかな。
 クッカバラも目つきが悪く、そこがまた愛嬌があるが、ヨタカは輪を掛けてがんこじいさんのような目つきだ。夜行性なのか静かにその目を閉じている。

 パパがあっちにもいる、と指さすので今度は下の方を見たら、そこには小さなドラゴンがいた。
 レインフォレスト・ドラゴン。
 ガラパゴスのイグアナを小さくしたようだ。鰓が張っていて横腹がとげとげの体をしている。

 奥さんは檻を開けて、ドラゴンともう一匹、ヘビに手足が生えたようなリザードを出してくれた。
 触っていいわよと、ぽんと手に乗せてくれる。
 パパの手にはドラゴン、私の手にはリザード。
 うわぁ、ひんやりしている。湿ってはいない。ドライだ。つやつやしていい手触り。触るまでちょっと気持ち悪いかなと思ったけど、びっくりするほど大人しい。

 恐がりのカナは遠巻きにしているだけだったが、レナは触りたいというので、リザードを抱かせてやった。
 両手で危なっかしく支える。落とさないでね。
 自分もドラゴンも手に乗せてみる。
 こっちも大人しいね。

 奥さんは更に奥から木の箱を出してきた。
「ベリーソフトだから触ってみて」と即す。
 木箱の中には、乾いたユーカリの葉をかぶって何かふわふわの生き物が丸くなって眠っていた。
 そーっとなでてみる。
 うわぁ、何て頼りなげな柔らかさ。
 すごく気持ちいい。
 かっわいい、何という名前の動物だろう。
 奥さんは「グライダー」と言った。
 グライダー? 名前のイメージからすると滑降する動物。ムササビとかモモンガみたいなみたいなものかしら。
 どんな顔をしているのだろうとユーカリの葉をそっとかき分けていたら、奥さんが葉をよけて顔を出させてくれた。
 ふわふわの頭にちっちゃな耳がついている。
 夜行性なのか、本当にぐっすり眠っているらしい。
 フラッシュをたかずに一枚撮影させてもらった。
 後からDiscoverというアサートンテーブルランドの無料観光案内誌に同じ動物の写真が載っているのを見つけた。
 その生き物はMahogany Gliderと書かれていた。



 ふと時計を見れば3時過ぎ。
 まさか・・・と思って岩場の方に行ってみれば、ちょうどわくわく動物探検ツアーのバスが到着したところだった。木の陰にどきどき夜行性動物探検ツアーのバスも見える。
 あやぁ、道に迷った末、奥さんにいろいろ見せていただいているうちに、ちょうど日本語動物探検ツアーがグラナイトゴージにやってくるまさにその時間になってしまったのだ。
 ロックワラビーの出てくる大岩の上は、笑っちゃうほど大勢の日本人がいた。
 ワラビーも10匹以上出てきて愛想を振りまいている。
 カナとレナにも餌を持たせた。
 ・・・でも何だか私たちまでツアー客みたい。

 パパが、「ツアー客は時間が限られているからあっという間にいなくなるよ、それまで待とう」と言った。
 尤もだ。
 去年の私たちだってほんの短い時間しかここにいられなかったじゃないか。

 ところが、だ。
 去年はSARSの影響で一ツアー15人ほどしか参加者がいなかった。今年はそういったマイナス要因は無いし、おまけに夏休みに片足つっこんでいる。恐ろしい数の日本人が押し寄せていた。わくわくもドキドキも、それぞれ3台以上のバスを連ねてグラナイトゴージに来ていたのだ。
 結果、「餌のお代わりは一回までですよ」と外人的イントネーションで日本語を話すオージーがツアー客をせき立て、嵐のように撤収させると、次のグループが大挙して岩場に降りてくる。それが終わるとまた次が・・・。
 狭い岩場は入れ替わり立ち替わり、団体日本人観光客の尽きることは無かった。

 パパがまた言った。
「少し静かになるまで、歩いてみよう。この辺りはトレッキングコースがあって、ルックアウトもいろいろあるようだ」

 グラナイトゴージはマリーバロックワラビーだけが日本では有名なようだが、その独特の景観も印象的だ。
 花崗岩の大岩がごろごろとある様子は、去年も見上げてすごいと思っていた。
 ワラビーに餌付けする岩場をちょっと登ったところにも、ひとつルックアウトがある。まずはそこに登ってみよう。
 巨人が丸岩を砕いて回ったような不思議な景観だ。砕かれた岩は放置されて長い年月の末ユーカリの森になったようだ。
 ひとけの無い原始的な光景。
 でもちょっと目を下に向ければ、相変わらずワラビーより数の多い日本人。

 もう一度餌場の岩に降りて、今度は反対側に歩いてみよう。プールがあるというのだ。
 もちろんここでいうプールは、コンクリで固めた人工物ではない。二日目にモスマン渓谷で見たような、ワニの出ないクリークのことだろう
 岩に白ペンキでSWIMと書いてある。
 子供たちを連れて大岩をよじ登ったり、狭い隙間を通り抜けたり、結構楽しい。
 上を向いているような特徴のある大岩はSEAL ROCK、あざらし岩か。
 その奥に静かな静かなラグーンがあった。
 ここがスイミングプールらしい。
 青い空と白い雲が水面に映っている。

 本当はトレッキングコースを全部回ると、往復1時間ぐらいかかる。
 子供たちがそんなに歩いてくれるとは思えないから、今日はここまで。
 でもここも本当に面白い。
 また機会があったら来てみたい。

 そしてゆっくり引き返すと、今度こそツアー客は影も形もいなくなっていた。
 彼らはこれから白オウムの林やら、大コウモリの森やら行って、日暮れ前までにはバロン川の川岸に着いてカモノハシウォッチングのため、静かに待機しなくてはならないのだ。
 ツアー客の去った餌場の大岩には、ぽつりぽつりと小さな子供を連れたオージー家族がのんびりとワラビーに餌をやっているだけだった。

 岩の上にはちょろちょろと可愛らしいワラビーの姿。
 さあ、好きなだけ餌をやっていいぞ。

 といっても、ワラビーももうお腹一杯か。

 マリーバ・ロックワラビーの爪は鋭い。
 岩場にしがみついて生きているのだから、当然発達しているのだろう。
 餌をやるときちょっと痛い。餌が逃げないように両手で餌を持つ手を押さえて、口を近づけて食べるからだ。
 カナもレナも痛くないワラビーがいいと言い出した。
 ええい、我が儘を。
 小さい子は爪が長くないのかあまり痛くない。小さい子に餌をあげれば?
 でも小さいワラビーに限って警戒心が強い。なかなか餌を食べてくれずに直ぐに逃げてしまう。
 そこを何とか忍耐で呼び寄せて、ようやくカナがあげようとすると、レナが待ちきれず駆け寄ってまた逃がしてしまう。
 そんなことの繰り返しだった。
 カナがあげたいワラビーに餌をあげられず、半べそをかいていたら管理人の奥さんがやってきた。
 もう餌が無くなってしまったのかと思って、カナに一握りの餌を渡してくれた。
 レインフォレステーションで購入した小さな円柱形に固めてあるカンガルーの餌と違って、スーパーで売っている鳥の餌みたいなミューズリ系の餌だった。

 最後にお腹の袋に赤ちゃんを入れたワラビーに残っている餌を全部あげて、グラナイトゴージを後にすることにした。
 出て直ぐダートのところで脇道らしいものを見た。
 あそこを行くと、さっき進入禁止だった私有地に出るような気がする。あの道が通れなかったおかげで何十キロ回り道することになったことか。
 推測だが、観光客が通るのを嫌がった私道の地主が道を塞いでしまったのではなかろうか。



 今日の予定はマリーバだけなのだから、余裕のスケジュールかと思っていた。
 去年、アサートン高原を回ったドライブのきつかったこと。
 だけど周り終えてみて、マリーバの広さに驚かされた。
 まあ、マリーバとBiboohraの間を何度も行き来したし、グラナイトゴージまでの道を間違えたというのもあるのだけど、マリーバの観光地というだけで、一ヶ所移動するのに平気で15キロ、30キロの距離なんだもの。
 マリーバにはロデオ、ウェットランド、マンゴーワイナリー、グラナイトゴージの他にも、マリーバ・ワイルドアニマルパークという動物園もあるらしい。まあオーストラリアまで来てライオンを見ても仕方ないが。

 だから思った。
「今回、七日目の予定にアサートン高原のドライブを入れていたけど、あれはキャンセルにしようか」
 予定を組み込んだとき、最後はほぼ何もかも都合良く収まった。熱気球もGBRクルーズも動物園も遊園地も。
 だけど旅の後半に差し掛かっての長距離ドライブは正直きついかなと思っていた。
 何より車に乗せっぱなしだと子供たちが嫌がって騒ぐ。
 たぶんこれが最後のケアンズ旅行だったら迷わずドライブを決行するに違いない。
「来年もまた、オーストラリアに来ようね」
「絶対来よう」
 だったらアサートンは来年の楽しみに取っておこう。
 バリン湖クルーズも、レイベンスホーの風車群も、明るい日差しの下で見るカーテンフィグツリーも。
 来年はもしかしたら、インノット温泉にだって足を伸ばせるかもしれない。
 たぶん二年続けてポートダグラスに宿を取ったのだから、きっと来年は違うところに泊まろうと思うだろう。
 それならなおさら、一日でも多くポートダグラスで過ごした方が良いのではないか。
 少しでもゆっくりとポートダグラスを見ておいた方が良いのではないか。

 帰路はまた、マウント・モーロイ経由で。
 サバンナの日暮れ。
 ちょうどぽかりと雲が一つ浮いていて、夕日は雲の中からオーロラのように神々しく降り注いでいた

 ミッチェル湖にはまだ馬がいた。まるで時間が止まっているように馬たちは湖の中で瞑想していた。
 額に一本角や、背に翼のある馬もいるくらいだ。賭けてもいい。ミッチェル湖の馬たちには立派な水かきがあるはずだ。

五日目「危機」に続く・・・
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