みなさんこんにちは。ただでさえ忙しいスケジュール、峠巡りのついでにこんな寄り道をされた方は他にいらっしゃいませんか? 


*** アルプスは今日もお天気 ***

第31話 マイリンゲンっていえばアーレシュルフトでしょの巻


 マイリンゲンっていえば、そりゃあもう、アーレシュルフトでしょう。ライヒェンバッハという選択もあるけど、まあ、初心者はアーレシュルフトでしょう。

 もともとはこんな危険なスケジュールを組むつもりはなかった。誘惑したのはマイリンゲンにおける1時間という微妙な待ち時間。そして、誘惑の手に乗った最大の理由は、スイス国内交通機関の検索ソフトが、ある停留所をはじき出したからである。

 出発前に、私は必要なルートと時刻表を次々とプリントアウトしていた。このソフトは、出発地と出発時間、到着地と到着時間を入力すると、条件にあったルートと時刻表を提供してくれるが、その他にルート上で通過する全ての駅名や、逆に、ある駅にその日停車する全ての電車のデータを出させることもできる。鉄道だけでなく、一部のルートの主立ったバス停留所もまたしかりだ。
 マイリンゲン発グリムゼル峠越えオーバーワルト着のPTTバスが通過する停留所をプリントアウトしていたところ、マイリンゲンの次のバス停名が目に留まった。やや、アーレシュルフトと書いてある。ということは、このバスはあの、アーレシュルフトに停車するのだ。
 ここまで来ると、みなさんにも誘惑に乗りたくなった気持ちが分かるに違いない。マイリンゲンから何とかしてアーレシュルフトに行けば、シュルフトを見た後で、そこから当初乗るはずだった峠越えのバスをキャッチしてなんなく旅を続けられるではないか。
 うーん、なんて完璧な計画。

 それ故に外したらおおごとだ。心臓もドキドキするわけだ。

 駅を出たところで、もう途方に暮れ果てた。
 マイリンゲンまで行けば何とかなるという期待は、どうも甘かったらしい。アーレシュルフトといえば一大観光地で、すぐに行き方がわかるかと思ったのだが、さっぱりだった。
 駅の前はバスターミナルになっていて、沢山のバス停、沢山のバス、沢山の行列が待っていた。そのどこに並べば目的の場所へ連れていってくれるのかわからない。悩んでいるうちに時間は刻々と過ぎていく気がする。
 とりあえず切符売り場のような所へ行ってみた。建物の外壁にアーレシュルフトのポスターが貼ってある。ここに行きたいと言えば並ぶべき列を教えてくれるに違いない。
 ダンナが英語で尋ねる。あっちだと言われる。しかしその列に並んでいてもさっぱりバスが来ない。前に並んでいる人に聞いてみてもそもそも言葉が通じているのかさえ怪しい。再度聞きに行くと今度は違う列を教えてくれる。そこは既に小型のバスが停まっていて、旅行者とおぼしい乗客たちが乗り始めているところだった。

 全員が乗り終わると、すぐバスは発車した。結構混んでいて、私たち夫婦と、母は、別々に座ることになった。母は、私たちのすぐ前の列に同年代の男性と並んで座り、なんと親しげに言葉を交わしているらしい。相手の方はどう見ても欧米人の年配の紳士で、日本語など話しそうにない。もちろん母は外国語など挨拶くらいしか出来ないはずだ。はて・・・。
 後から聞いてみると、隣席の親切な紳士が何かと話しかけてくるので、言葉はわからないながらふんふんと相づちを打っていたそうだ。これもコミニュケーションというものか。
 バスはどんどん街を離れて山あいへ入っていく。ところで本当にこのバス、アーレシュルフトに行くのだろうか?

 手持ちのガイドブックでは、アーレシュルフトに入るにはマイリンゲン口とインナートキルヒェン口とと二つ入り口があり、マイリンゲン口に行くにはマイリンゲン発7、8月のみ運行の一日10本の小型バスに乗る、インナートキルヒェン口に行くには一日15本以上あるPTTバスに乗る、と書いてある。ところが峠バスの停留所の名前は単なる「アーレシュルフト」で、これがどちらの口かわからない。後から考えれば峠越えのバスもPTTバスには違いないし、もう9月なのだから、当然インナートキルヒェン口に行くのだと言われればそうなのだが、その時はわからなかった。ちなみに「アーレシュルフト」の次の停留所の名前は「インナートキルヒェン・ポスト」だ。
 そしてもちろん今実際に乗っているこのバスが、どっちの入り口に向かっているのかはその時は動転していて益々もってわからなかった。
 もし、このバスの停留所と峠越えバスの停留所が別の入り口にあった場合、限られた時間内に端から端まで歩き通さなければならないし、同じ口であった場合は、途中で引き替えさざるを得ないから半分しか見ることが出来ないだろう。

 山の間の田舎道でバスが停まった。運転手が「アーレシュルフトだ」というようなことを言う。
 バスは、私たち3人だけを降ろして、そのまま走り去った。ぎっしり乗っていた乗客たちは、他に誰も降りず、何人かが手を振ってくれた。そこで初めて気付いたが、何故か乗客たちの大半が、年配の方々だった。みんなどこまで行くのだろう、アーレシュルフトじゃないのかなぁ。
 あたりを見回すと、目の前にぽつねんと山をバックに三角屋根の小屋が建っている。土産物屋のような建物だ。小屋の正面には「Aareschlucht」と書いてある。どうやらここが目的地らしい。でも、・・・いったいどこに渓谷(シュルフト)があるのだろう。この時点でもう、途方に暮れそう。

 文中のガイドブックとは、ダイヤモンド・ビッグ社発行「地球の歩き方44 スイス '96〜'97年版」1995年10月10日発行のものです。
 この時は本当にドキドキしていました。スケジュール通りに行くかという心配もさることながら、本当にこれが噂のアーレシュルフトなのかと疑ってしまいました。でも、トリュンメルバッハの入り口だって教えてもらわなければ中に何があるかなんてわからないもんなぁ。次回は中に入ります。ではまた。

追記 アーレシュルフトに発着するのバス乗り場は複数あるため、なかなかバスが来なかったり、別の乗り場を指示されたりしたのではないかとの情報を、その後、ほんちゃんから頂きました。ありがとうございます。

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