みなさん、こんにちは。文中には出てきませんでしたが、メンリッヒェンで私はシルトホルンを見つけました。途中駅のビルクが岩の上にあるので、それを目印に探してみました。明日はシルトホルン行きです。
 え? 明日の前にまず、今日をしめくくれって?


*** アルプスは今日もお天気 ***

第22話 ユングフラウはどれですか?の巻


 さて、私がメンリッヒェンの頂上へ向かっている間、ダンナと母は何をしていたのかと言うと・・・

 グリンデルワルトからのゴンドラ乗り場に併設された屋外レストランの席で私を待っている間、ダンナは2本のビールを飲んだ(銘柄は定かではない)。すると、女子大生風の女の子が二人、グリンデルワルト方面からゴンドラで上がって来たそうだ。そして、日本人であるダンナを見つけると近づいてきて3山の並んでいるパンフレットをかざして開口一番、
「あのー、ユングフラウってどれですか?」
 と、聞いたそうである。

 これにはさすがにスイス旅行の情報収集を全て私に任せていたダンナもズルリと滑ったそうだ。

 確かにちょっと雲がかかっていてわかりにくかったことは否めない。が、しかし、ここに来るんならユングフラウぐらい覚えようね。
 ダンナはあきれながらも鼻の下をのばして、「あれがアイガー、あれがメンヒ、あれがユングフラウ」と一つ一つ教えて、親切に3山をバックに写真も撮ってあげたそうである。

 午後5時、私も頂上から戻ってきたので3人揃って山を下りることにした。
 ゴンドラ乗り場から、ウェンゲンへ下りるロープウェイ乗り場まで歩いていく途中、道々会う人たちがみんな私に手を振ったり会釈したりする。
 ダンナが不思議そうに私の顔を見る。
「みんなお友達みたいじゃないか?」
 だって、みんなメンリッヒェン頂上への往復で私が会った人たちなんだもん。言葉を交わしたわけじゃないけど、あそこまで登ったっていうだけで、みんな親近感をおぼえるんだもん。独りっきりでメンリッヒェン頂上を目指してがむしゃらに登っている東洋人の女はさぞや目立ったのでしょう。み〜んな私に手を振ってくれるのだ。うれし〜い。

 ロープウェイ乗り場には人影がなかった。勝手に入っていくと、ロープウェイが登ってくるところだった。ロープウェイから係員が降りて、誘導してくれた。ちょっと待った、私たち切符買ってないよ。だってどこで切符買えるのかわからなかったし。私たちが持っている切符は、朝、半額割引で買ったラウターブルンネン−ユングフラウヨッホ往復の切符だけだよ。
 でもタイミングを逸してそのまま乗ってしまった。私たちの他は数人のお客さんが乗っただけでがらがらだ。
 ロープウェイはゆっくりと動き出した。
 みるみる足元から雲の塊が近づいてくる。
 すうっと吸い込まれてなんにも見えなくなった。これで本日のページェントはおしまい。

 視界が雲で遮られたまま、相変わらず真っ白なウェンゲンに着いた。ロープウェイを降りて、改札らしいところに歩いていくと、小山のように大きなおじさんが怖い顔で座っていた。
「あの〜、私たち、切符持っていないんですが…、ここで運賃を払えばいいですか?」と、おそるおそるダンナが英語で言う。
 おじさんはガラス越しにじろりと睨む。
「何も切符持っていないのか?」
 一応、朝購入したラウターブルンネン−ユングフラウヨッホ往復の切符を見せる。
「ふふん」 おじさん、にやり 「クライネシャイデックから歩いたのか?」
「は、はい…」
 おじさん、ぱーんと手をたたいた。
「おまえら、行っていいぞ〜、金は払わなくっていいからな〜」
 びっくりした。おじさんはにこにこと手を振っくれる。
 これはWAB及びJBの往復切符を持っていれば本当にタダになるのか、サービスしてくれたのか、今でもわからない。

 ロープウェイの駅からWABの駅までは、ちょっと歩く。リゾートっぽいウェンゲンの村の中をつっきる。花いっぱいのシャレーが建ち並んでいてとても綺麗だ。

 ホテルに戻るとすぐ夕食の時間だ。
 結局ウェンゲンから下は、今日も丸一日太陽を見ることがなかったのだ。部屋はとっても寒い。チューリヒのホテルもここも布団は立派な羽布団で、かけて寝ると夜は暑いくらいだが、起きているときはとっても寒い。気温が低いので指先がかじかむほどだ。
 よーし、暖房を入れてもらおう!、そう思って夕食の時に昨日の黒縁眼鏡のお姉さんに頼んでみることにした。
 …しかし、悲しいかな、私たちは独語が駄目で彼女は英語が駄目だ。彼女はホテルのマダムを呼んできた。なんとか暖房を入れてほしいということと、石鹸を使い切ってしまったので新しいのが一つほしいということを伝える。
 ん?、うまく通じてないようだぞ。ダンナ、得意の英会話はどうした〜?
 とりあえず「ブルブル」という身振りをしてみる。あっOKだ。通じた。

 と、思ったのは甘かったようだ。
 食後、若いメイドが毛布を持ってあらわれた。違うのよ〜。布団は暖かいの。部屋が寒いので暖房を入れてほしいの。
 しかし、彼女はこちらが言い終わる前に飛び退いて、片言の英語で「ワタシ、イタリア語オンリーなんですぅ」と言った。先手を打たれてしまった。こりゃ駄目だ。とりあえず毛布を受け取り、「ソープは?」と聞くと、「OH! ソープ」と言って彼女は身を翻し、戻ってきたときは石鹸を大量に抱えてきた。

 …きっと、9月なのでまだ暖房は入れていないのであろう。山の中というほどの標高じゃないしな、と自分を納得させながら、とりあえずお風呂で体を温めて、その日は寝てしまったのだ。

 9月3日は夕食をすっとばしてしまったので、翌4日は朝食の風景からスタートすることにします。

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