みなさん、こんにちは。おなかも空いてきた頃です。9月2日の夕御飯を一緒に味わって下さい。


*** アルプスは今日もお天気 ***

第13話 KA:SEをせっせ/せっせとの巻


 ホテルに戻って一休みすると、いよいよ待ちに待ったディナーの時間。流石にドレスアップはできないが、せめても靴だけは履き替える。
 私たちの部屋は最上階なのでせっせと階段を降りて一階に行くと、大人しそうな犬が一匹、階段の下に寝そべっていて、眠そうにこちらを見ていた。

 ラウターブルンネンの3つ星ホテル、シルバーホーンは、入口を入ると左右にそれぞれ居心地の良さそうなダイニングルームがある。特に入って左の部屋は広くてガラス張りで外からも目立つので、私たちはこちらがレストランで、右の部屋が宿泊客用の食堂だと思っていた。
 が、逆だった。すると、私たちがチェックインした昼過ぎも、滝から帰ってきた夕方も、ずっと右の部屋でビールをかっくらっていたオジサマ方は、もしかして地元の方々だったのか?

 席に着くとテーブルの上に本日のメニューがおいてある。もちろん独語だ。
SALATBUFFET
GERO:STETE GRIESSUPPE
KA:SEKUCHEN
SALTIMBOCCA ROMANA RISOTTO TOMATE CLAMART
SCHOKOLADENPUDDING MIT KIWI UND ERDBEEREN
と、タイプ打ちされている。第二外国語で独語を習っているはずのダンナは、すぐに放り出した。まったく判らないと言う。
 私が、メニューを見つめて「ふんふん…」と言うと、「なんだよ、判るのか?」とのぞき込む。自慢じゃないが、独語は全ッ然、習ったことがない。しかし…
「SALATBUFFET は、サラダビュッフェでしょ、サラダバーってやつだ。
GERO:STETE GRIESSUPPE は何だかわからないけど最後のズッペはスープのことだから何かスープが出て来るんだと思う。
KA:SEKUCHEN は、チーズ嫌いの私はあんまり想像したくないが、KA:SE がチーズだからチーズ料理が出てくると見た。クーヘンってバームクーヘンのクーヘン?
SALTIMBOCCA ROMANA RISOTTO TOMATE CLAMART は全然わからないけどリゾットとあるからローマ風リゾットかな。それともローマは前につくのかな? その後ろはトマトクリームと読めるような気がする。とにかくリゾットと言うからにはお米が食べられるかも。
SCHOKOLADENPUDDING MIT KIWI UND ERDBEEREN は最後だからデザートだ。チョコレートプディングにキウィと何かが添えられているらしい。プディングは日本で言うプリンか、焼き菓子系かどっちかわからないけど」
 出てきたお料理は基本的には当たっていた。奇跡だ。

 私たちのテーブルを担当するのは、ちょっとぽっちゃりして、一昔前の女学生のような黒縁の眼鏡をかけた生真面目そうな女性だった。ワインを頼もうとして、どれがお薦めか聞いたところ、ほとんど英語は判らないらしい。いきなり困ってマダムを呼びに行ってしまった。でも帰る頃には彼女とも仲良くなるのだ。しばらくすると彼女がとっても面倒見が良くてすこぶる愉快な人であると判る。
 マダムは背が高くて品が良くて理知的な人だった。でも取っつきにくいというわけではない。一人一人に気を配って、夕食時には必ず全部のテーブルをまわって一言二言お話をするのだ。
 ワインリストを開く。マダムは英語もばっちりだったので、まずスイスのワインがどれか聞き、こちらで適当に選ぶことにした。

 実はスイスワインは既に飛行機の中で飲んでいる。スイスエアで出たのはファンダンの白だった。辛口の、あまり酸味が強くなくすっきりしたタイプの好きな私には、もうすっかり癖になってしまう味だった。さらにスパークリングではないと思うのに、舌に炭酸っぽい刺激がくる感じがたまらない。スチュワーデスさんが「何か飲み物は如何?」と回ってくる度に「ホワイトワイン プリーズ!」を連発して、機内ですっかり出来上がっていたのは、何を隠そう私だ。ちなみにビール派のダンナはフリブールのカージナルのお世話になっていた。

 そんなわけで、今回はファンダンではなくエーグルの赤を頼むことにした。黒縁眼鏡の彼女がワインを運んできて、ダンナにテイスティングさせる。神妙な顔でグラスを振り、香りをかいで、飲む。本当に理解しているかどうかは怪しいところだが。
 しかし黒縁眼鏡の彼女は、ダンナの通ぶった感想など期待していない。正しいワインを持ってきたか見ろ見ろと無言でワインのビンをかざす。母が見かねてダンナをつついた。彼女があんまり真剣だったからだ。

 キュートなトカゲの絵のラベルのワインを楽しみながら、運ばれてくる料理を食べる。スープは野菜たっぷりでちょっと濃い味だ。KA:SEKUCHEN は私にはちょっと厳しかった。見た目は焼きチーズケーキ。味もその通り。母は「あら、けっこうチーズが強烈ね」と言って私の顔を見る。チーズの苦手な私は青い顔。しかし、ディナー初日のここで、いきなりギブアップするわけにはいかない。スイスでの旅路、この先ずっとチーズづくしかもしれないのだ。アーメン…。
 がぶっと一口。そのまませっせと食べ続ける。手を休めたらそこでナイフとフォークをおいてしまうことはわかっていた。はっと気がつくと、私の皿が一番先に空になっていた。そこには「信じられない」という母と夫の顔が…。
 肉料理の付け合わせだったが、リゾットは、ずっしりと重かった。本当にみんなこんな量を食べるんかい? もう何にも入らないよ。
 デザートまで一気に食べ終わると、おなかはいっぱい。一日一回は和食を食べないと保たないと思った母も大満足のようだ。良かった良かった。

 ディナーが終わると、あとはお風呂に入って寝るだけだ。朝早く起きて、昼間よく遊んで、日が暮れると、もう夜更かしなんてする気にならない。スイスにいる間中、ずっとそうだった。

 でもなかなか寝付けない。なぜならお天気が心配だからだ。明日また雨でもする事がないわけじゃない。マイリンゲンに行き、シュルフトと滝を見て、帰りに船にでも乗ろうかと考えている。でも、そういう問題じゃない。4千メートル級の山の麓に来て、山を見ずには帰れない。ここまで来てそれはない。本当はすぐそこにそびえているはずなのに。日本でもこのところお天気は不安定で、一週間すっきりしないなんてことも珍しくなかった。スイスで、今、そうだったら…。3日は短い。いや、3日どころではなく、帰国するまでずっと曇っていたら…。明日こそ晴れて欲しい。お願いお願い…。その言葉がぐるぐると回っているうち、ワインが効いたのか何時しか意識は闇に融けていった。

さあ、次回はいよいよ3日目に突入です。長文になってゴメンナサイ。ちなみに、今回の13話のタイトルはMY HUSBAND作です。だっさー(xx)☆\(^へ^#)バキッ

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