ようやく私たち一家もアルプスまでやってきました。しかし広告に偽り有りならぬタイトルが偽りだらけ、たどり着いたラウターブルンネンの谷間では、ついに雨が降り出してしまいました。いつになったら「お天気」になるのやら。


*** アルプスは今日もお天気 ***

第10話 雨の日には雨の日の楽しみをの巻


 ラウターブルンネンは、ユングフラウ地区の中でもどちらかというと地味なところである。両側はその昔、氷河の削り取った切り立った崖で、村はU字型の谷底にある。私たちが着いたその日、お天気は最悪だったので、私たちはさながらビンの底にでもいて、その上を厚い雲でぴっちりと蓋をふさがれているような感じだった。

 ラウターブルンネンで泊まるホテルは「Silberhorn」。ラウターブルンネンのメインストリートをしばらく行くとホテルが何軒か並んでいるが、そっちではなく、駅前の銀行の横を入って急勾配を2分も登れば玄関にたどり着く。
 建物はスイスのかわいいホテルとしてイメージしていた通りのつくりで、庭は花でいっぱい。ダイニングルームはガラス張りで、庭の景色がよく見える。
 レセプションで名乗る前に、向こうから名前を当てられる。今日の宿泊客に他に日本人はいないらしい。案内された部屋は最上階。天井は屋根の勾配がそのまま出ている、これは果たして憧れの屋根裏部屋というべきか?
 ベランダに出てみる。私たちの部屋は、駅の方を向いた正面玄関とちょうど反対側にあったので、ベランダからの景色は、ミューレン側の斜面になる。ベランダから右手を見ると、すぐそばにミューレン行きのケーブルカーの線路が見える。左手は、少し遠いがシュタウプバッハの横顔だ。真っ正面の傾斜には、ハイジが出てきそうな小さな小屋が建っていて、小屋の周りの柵の中にはいろんな動物がいる。山羊に似ているがちょっと違う動物や、たくさんの鶏、白いのは鵞鳥だろうか。鶏ときたら柵をものともせず敷地外を適当に走り回っている。後で聞いたら、それらの動物は、ホテル「シルバーホーン」の女主人が趣味で飼っているのだそうだ。と、いうことは、夕食のチキンはまさか…。

 さて、まだ昼過ぎだ。もう一遊びできる時間である。
「どうする?」と私。「どうする?」とダンナ。
「その1、インターラーケンに戻ってお買い物。その2、グリンデルワルトに行ってお買い物。その3、滝を見に行く」
「よーし、滝だ。あの何とかっていう地面の中を流れている滝を見に行こう」
 おや、ベルンの時は煮え切らなかったのに、決断の早いことで。
「実は滝を見るの、楽しみにしてたんだよ。行こう行こう」
 トリュンメルバッハは、スケジュールでは明後日見学のはずであった。でも予定はあって無きが如し。これが個人旅行のいいところだ。

 トリュンメルバッハ経由シュテッヒェルベルク行きのバスの時間をチェックする。あと20分くらいで出るようだ。フライラゲージで成田から送ったスーツケースは無事ラウターブルンネンまで到着していたので、中からセーターを取りだして着る。本っ当に寒いのだ。カメラをデイパックにしまって、レインコート代わりのフード付の上着をはおって、さあ、出発だ。

 駅前に黄色いPTTバスが待っている。乗り込んで運転手から切符を買う。乗客の人数は半分くらいといったところかな。新婚らしい日本人のカップルが一組いる。
 バスはきっかり時間通りに出発した。流石はスイス。
 バスは、メインストリートに沿って、何軒かのホテルやcoop、土産物店の立ち並ぶ賑やかな中心部を抜けていく。とはいえ人口1,000人ほどの小さな村の中心部を抜けるのはあっという間だ。よくシュタウプバッハの滝とセットで映っている教会のところで、道はぐうっとカーブして、バスは泡立つワイセリュチーネの流れを渡る。
 そこから先はもう、ちらほらとシャレーが点在するばかり。岩壁には、シュタウプバッハだけでなく、幾本も細い滝が流れている。バスの窓からはてっぺんは見えないから、まるで滝は空からそのまま降っているようだ。何回見ても、本当に凄い谷だ。

 景色に見とれて7分ほどで、トリュンメルバッハのバス停に着く。バス停から、実際の入り口までは、数分歩く。谷間に開けた草原で、よく見るとたくさん花が咲いている。一面にとはいかないけれど、なあんだ、9月でも結構花は咲いているんだと、なんだか嬉しくなる。ラウターブルンネンで高度796mだから、高山植物ではないけれど、しろつめくさやタンポポといったなじみのある花のアルプス版だ。ほんと、これで雨さえ降っていなけりゃ…だよね。
 そして、入り口で滝の入場料を払い、私たち3人は、いよいよアルプスの驚異、氷河融水の滝、トリュンメルバッハに足を踏み入れたのであった。

 次回は、いうまでもなくトリュンメルバッハなんですけどね〜。あそこってほら、行ったことのある人はうんうんとうなづいてくれると思いますが、写真に撮るのもビデオに撮るのも難しい。つまるところ、文章で表現するのも超難しいところです。あの、あの、大迫力は、行って体験してみないと判らない。
…ってところで、行ってない皆様にはいつか行ってもらうとして、「アル天11」は永久欠番にして、滝が終わった後の「12」に飛ぶとか…
 …ダメですかね、やっぱり。

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