5.ミッションビーチの優雅な一日
五日目 5月2日(月) |
グレートバリアリーフは大陸の東側に連なっている。
だからこの辺りの海岸では海から日が昇る。
東の空が藍色から菫色に変わってきたのが部屋からも見えた。
去年も一昨年も、オーストラリアに来ると早起きして海岸を散歩するのがパパの日課になっていた。
「あれ? 散歩についてくるなんて珍しいじゃない」
確かに。
私がこんなに早起きして、夜明けを見に海岸を歩いているなんて珍しい。
「いいじゃない。だってここは目の前が海なんだもん」
「近いと来て、海から遠いと来ないのね、なんだいそれ」と笑いながらパパ。
昨日の夕刻と違い、かなり潮が満ちていて砂浜は狭まっていた。
海の上空は刷毛で描いたような薄い雲が少し棚引いて、水平線近くにはもう少しまとまった雲の固まり。
全体的にはよく晴れている。
ダンク島の北側の水平線が茜色になってきた。
低いところにある雲が、火事で燃える煙のように真っ赤に変わる。
綺麗だなぁ・・・
日の出はもうすぐだ。
パパが、「ここの日の出前の海は紫色になるんだな」と呟いた。
ポートダグラスの夜明けと色が違うと言う。
「海岸の砂の粒子の大きさが違ったりすると、反射率が違うんだよ」
本当ー?
その説が本当かどうか判らないけど、海の色は本当に桜貝にも似た紫色だった。
沖に浮かぶ小島が、まるで碁石のように下がすぼまって見える。
こちらはたぶん大気と海面の温度差からレンズのように曲がって見えるのだと思った。
今度は砂浜を歩いていて面白いものを見つけた。
「パパ、見て見て」
「・・・!!」
「ねぇねぇ、部屋に持って帰って焼いて食べようよ」
「やだよ、お腹壊すと困るから」
「大丈夫だよ、絶対新鮮・・・・だってほら、まだ生きてるよ」
私が見つけたもの、それは何と砂浜に打ち上げられたイカだった。
手の平ほどのサイズ。
近づいてみると、表面の斑点が点滅して見える。これは生きてるって証拠だ。
可哀想に足が何本かちぎれている。たぶん大きな魚にでも襲われてかじられたのだろう。
パパは絶対食べないと言うので、海に帰してやった。
たぶんもう、生きられないと思うけど。
この海からは他の魚も見えた。
姿が見えるわけじゃないけど、魚影のようなものが浜からもはっきり判る。時々はねる姿も。
釣りをしたら沢山釣れそう。
ようやく日が昇ってきた。
水平線からオレンジ色の太陽が顔を出し、岸に向けて海に一本の光のラインを描いた。
そのラインは波とともに階段状に揺れ、辺り一面が黄金色に染まった。
潮が満ちているのでうっかりすると波に足下をすくわれてしまう。
同じアパートメントに泊まっている女性二人がやはり日の出を見に海岸に出てきて、波で裾をぬらしていた。
パパがそれを見て、
「なんだいあいつら、寝間着のままじゃん」と楽しそうに言った。
いいじゃない、寝間着のままでも。それだけアコモがビーチに近いってことなんだからさ。
「その上見ろよ、手にコーヒーカップなんて持ってるぞ」
いいじゃない、ペットボトルとかじゃなくて、コーヒーカップ持ったまま出て来られるほどビーチに近いってことなんだからさ。
カップを手にした二人は波打ち際で太陽が昇るのをひとしきり見た後、木立まで下がってベンチに腰を掛けた。
そう、この辺りではビーチ際のいいところにさりげなく木のベンチが置いてあったりする。
のんびり海の休日を楽しむには、本当に良いところだ。
子供たちは起きてくるとまずベランダのブランコで遊んだ。
このアパートメントは部屋ごとに少しずつファブリックや調度品を変えてあって、ここから見える余所の部屋のブランコは違う場所に備え付けてあったりした。
昨日パパは、他の部屋のブランコで気持ちよさそうに昼寝している男性を見たと言っていた。
そうか、このブランコは子供の遊び用ではなく、基本的にはよくリゾートホテルのベランダなどにあるハンモックと同じなのね。
ハンモックより寝心地がよさそう。後で試してみよう。
朝ごはんもバルコニーで。
日の出の時には雲があった空も、今は快晴だ。
朝の海を見ながら、太陽の下で朝食を食べられるなんて、なんて幸せなのかしら。
「それもこれも」
「俺が」
「私が」
「このアコモデーションを見つけたから」
どっちも譲らない。
ウォンガリンガ・ビーチアパートメントは5棟の一部連結した建物から成っている。内訳は1ベッドルームが1部屋、2ベッドルームが4部屋、3ベッドルームが4部屋だ。
1ベッドルームの部屋は管理棟とひとつになっていて、変形二階建て。
残りは全て、1階が3ベッドルームで2階が2ベッドルームになっている。
2階でないと海が見えないかと思ったがそんなことはない。1階は1階でプールも海も地続きで自分の庭のような感覚だ。
海辺の青い空を見上げていると、今日はどこかへ出かけるのもいいけど、一日浜辺にいるか、プールサイドにいるか、バルコニーにいるか、もうそれだけで十分という気になる。
ところが子供たちが選んだのはそのどれでもなかった。
「ニモを見る!!」
それはグレートバリアリーフに行ってシュノーケルしたいと言う意味ではない。部屋に備え付けてあったDVDのタイトルに、ディズニーのファインディング・ニモがあったので、それを見たいと言っているのだ。
えー。
そんなの雨の日にでも見なよ。
しかし子供って言うのは、先まで考えてよりいいものを選ぼうとはしない。目先のことだけ。今見たいと言ったら見たい、これしか考えられないらしい。
仕方ないのでリビングのテレビをDVDに切り替えた。
このテレビ、そのまま衛星放送も映る。
パパが、去年まで泊まっていたリッジスでは有料だったのにと感心していた。
昨夜なんかムービーのチャンネルを回したら、たまたまキルビルなんてやっていた。
オーストラリアのビーチリゾートで、アジアンビューティーなルーシー・リューがやくざの姐さん姿で「やっちまいなー」と日本語で叫ぶのを見るのは、なかなかどうしてシュールというもの。
DVDのニモは、当たり前だが英語版。
それでも映画館で一度見たことのあるカナとレナはストーリーを覚えているので別に気にならないようだ。
パパもVB片手にバルコニーで日光浴できればそれで何も文句は無いらしく、「散歩でも行ってくれば」と私を送り出してくれた。
カメラを片手にその辺りを歩いてみることにした。
ウォンガリンガのある場所は、ウォンガリングビーチとReid Roadに挟まれている。
Reid Roadに出て、サウスミッションビーチ方面へ歩き出した。
店舗やレストランはみんな海からもう一本離れた中心地に固まっているから、この辺りには何もない。
道の両側は住宅地か別荘地が並んでいるといった雰囲気だ。
昨夜ウォンガリンガが満室だったように、今日までが地域のホリデーだったのかどこの建物にも何となく人の気配がある。庭で水着姿の子供たちが遊んでいたり、車を洗っている人がいたり。
車通りもあまりない、広い道を三羽の水鳥がとてとてと渡り始めた。
なんとなく動きがユーモラスで、しかも三羽というのが変わっていて目に付く。普通鳥って、つがいか、群れかという感じなので。
一列になって渡りだしたのだが、あまりのんびり渡っているので反対車線から車が来てしまった。
これまた飛べばいいのに後ろの二羽だけUターンして、とてとてと戻ってきた。先頭は道を渡り終えてきょろきょろしている。
なぁんか、おっかしな鳥たち。
少し歩くと右手にカサウォング・コテージがあった。
ここはウォンガリンガに決める前に第一候補として考えていたアコモデーションだ。
木製の看板も、自己主張している庭の木も、森の中の隠れ家風のコテージもとても雰囲気がよい。
ただ、道路より海側のウォンガリンガがビーチのリゾート風とすると、こちらはフォレストのリゾート風で、やはり今回私たちが求めたものとは違っていた気がする。
カサウォングも満室の札を出していた。
あとはふらふらと、道ばたに咲いている花を撮影してみたり、海岸の方へ歩いてみたりした。
何もかもが物珍しくて、何もかもが興味深かった。
日差しがあまりに強かったので、部屋に戻ると最初は真っ暗で何も見えなかった。
ファインディング・ニモはまだ終わっていなかったが、パパは今日はここまで、とテレビを消した。
とりあえずみんなでミッションビーチのビジターセンターに行ってみることにしよう。
ウォンガリングビーチを離れ、ミッションビーチの中心地へ向かう。
結構距離があるので車でないと無理だ。
ビジターセンターは中心地より少し波止場寄りの所にある。
ちょうどビジターセンターの前まで来て、車の中でカナとレナは口喧嘩を始め、駐車場に着いたときにはレナの機嫌は最悪だった。
カナは大人しく降りたが、レナは泣いて降りたくないと言った。
パパとカナを先にセンターの中に行かせて、母はレナと根比べ。
このところ酷い反抗期で、時々ほとほと途方に暮れる。
ミッションビーチ・ビジターセンターは、森の小径を歩くウォーキングトレックの入り口に、木々に隠れるようにあった。
ここにはミッションビーチの観光案内や情報を提供するインフォメーションセンターと、北クイーンズランド州の熱帯雨林やミッションビーチ近隣の自然環境と生態系について学べるウェットトロピックスセンターの二つが並んで建っている。
あまり長いことレナが機嫌を直さないので、心配してカナが戻ってきた。
「カソワリーがいるから見においでよ」
「本物じゃないんでしょ」
「うん、本物じゃないけど大きいよ」
ミッションビーチはカソワリー・カントリーとも呼ばれる。
カソワリーとは別名ヒクイドリ。
ダチョウ、エミューについで体が大きく、北クイーンズランドからニューギニアのごく限られた地域にしか生存していない。
頭に固い茶色の帽子を乗せたようなとさかがあり、顔から首に掛けては目の覚めるような鮮やかな青、真っ赤な肉ひげが首の所に二段についていて首の後ろも赤い。また胴体は黒いごわごわの毛のような羽に覆われている。
とにかく赤・青・黒の三色で色彩的に猛烈に派手だ。
ミッションビーチはあちらこちらにカソワリーの像や注意を即す看板を立てて、ここは「カソワリーの里です」と大々的にうたっているが、観光客が野生のカソワリーに遭遇する確率は、みんなが希望するより遙かに低いらしい。
インフォメーションセンターの中は冷房が効いてひんやりしていた。
壁一面にツアーやアコモのパンフレットが入ったラックが並んでいる。
何故か天井からはだらんとカクレクマノミ柄の着ぐるみウェアが一枚垂れ下がっていた。
本当はこういうところは好きで、用もないのに片っ端からパンフレットやちらしをもらってしまうのだが、今日はまだレナが機嫌を直していないので長居はできない。
パパがめぼしいものは一通りもらったと言うので早々に外に出ることにした。
「この辺の地図がほしいって言ったら、とても詳しい地図をくれたにはくれたんだが・・・」
見ると二枚の地図はそれぞれ、ポートダグラスを中心にクックタウンからケアンズまでの地図と、アサートン高原を中心にケアンズからイニスフェイルの手前までの地図だった。
・・・。
何でミッションビーチに来て、ミッションビーチの地図が無くてもっと北の地図ばかりあるの!!
こんなにいいフリーマップがあるなら、去年とか一昨年とか、せめて今年の三日前にほしかったよ。
今ほしいのは、この辺りの道路地図なのに、イニスフェイル以北の詳細な地図を、手に入れてどうする・・・。
何だか脱力してしまった。
次にウェットトロピックスセンターの方に入ってみた。
こちらはパネルや模型などを使って熱帯雨林について子供から大人まで学べるようになっている。
近隣の公園に出没したカソワリーのスナップ写真とか、熱帯雨林を紹介した本や雑誌なども展示されている。
片隅にテーブルと椅子があって、塗り絵セットや森に棲む生物たちの木製パズルなどが置いてあった。
早速子供たちはそこに座って塗り絵にチャレンジ。
金髪の女の子も一人加わって三人で遊んでいた。
塗り絵に選んだのはカソワリーの親子。
カナは判らない色があるという。
赤いのはどこだっけ。足や目は何色だっけ。
続きは部屋に戻って調べようよ。去年買ったオーストラリアの鳥図鑑だって持ってきているんだし。
ふとラックにイニスフェイルからミッションビーチにかけての地図を見つけた。
おっ、あるじゃない。
ところが広げてみたら、それは地図ではなく海図だった。
道路は適当にしか載っておらず、近隣のリーフが詳細に描かれている。
まあいいか、もらっておこう。それにしても結局「地図」は無いのね。
今日のランチはミッションビーチのメインストリートで。
とはいってもここは本当に小さなリゾートで、洗練されたポートダグラスのワーフストリート辺りと比べると田舎町らしい長閑さが漂っている。
通りの両側にいくつかカフェやショップ。そしてヴィレッジ・グリーンと呼ばれる小さなショッピングセンターの入り口にATMと書いてあるのを見て、
「銀行?」とパパ。
えっ、でも看板の方にはフードマーケットって書いてある・・・。
入り口が狭く、とても食料品店には見えなかったが、中に入ると本当にスーパーマーケットだった。但し、ごく小さい。ミッションビーチで買い出しをしようと思ったらここしかないのかもしれない。
フードマーケットの隣のオープンエアで食べることにしよう。
Fish Bitesというカフェで、海の家に毛が生えたようなカジュアルさ。
ここはFish Bitesと他にもう二軒の店が共通で座席を置いているらしく、カウンターは三つ並んでいた。
シーフード、チップス、バーガー、サンドイッチ・・・とメニューが並ぶFish
Bitesの隣は、イタリアン・ピザ屋で、さらにその隣は中華料理屋だ。どれもここで食べるほかテイクアウトも扱っている。
中華料理屋のカウンター横にはよく漁船に備え付けてあるドーナツ型の救命浮き輪が飾られていて、書かれている文字は「日昭丸 香川 土佐」・・・。
どこから持ってきたの? いったいどこが中華じゃいと吹き出してしまう。
いつも無難なメニューしか注文しないパパは、奇抜なメニューを頼みがちの妻に掛けることにしたらしい。
「何にする?」
「・・・フィッシャーマンズ・バスケット」
「どんなの、それ?」
「だから判らないって」
今回は無難な皿が来た。
刺身とはいかなくてももうちょっと生っぽいものがくるかと思ったら、フライドポテトの上に白身魚やイカを揚げたものがのっているというフライオンリーの料理だった。
そしてオージーサイズ。
巨大な魚の形をした皿の上にどっさりと乗っている。
良かった、一皿にしておいて。
四人でシェアしてもお腹いっぱい。
帰りがけに今度はウォンガリングビーチのショッピングセンターに寄ってみることにした。
こちらも規模はミッションビーチと同じくらいだ。
カナがトイレに行きたいと言うのできょろきょろと探したが、どうも外には無いようだ。
カフェの中にあると書いてある。
カフェで何か頼まなくても使えるんだよね・・・とちょっと心配に。
トイレから戻ると、パパとレナがスイカを手に提げていた。
「どうしたの、それ」
「え? レナが食べたいって言うから」
スーパーマーケットで買ってきたらしい。
えー、それなら私も買いたい。
パパは「もうあまり現金が無いんだけど・・・」と、しぶしぶ財布を渡してくれた。
買いたいのはフルーツ・・・中に入ると確かにここのスーパーも小さい。
日本で言うと、コンビニより少し大きいぐらい。日本でも田舎に行くとコンビニとスーパーマーケットを足して二で割ったような食料品店がよくあるが、あんな感じ。
当然競合するところがないからお値段もそれほど安くない。
とりあえず困らない程度に何でも揃っている。
パパイヤと洋梨とプラムを買った。
他にももっとほしかったが、財布の中が寂しかったので。
午後はプールサイド。
ウォンガリンガ・ビーチアパートメントのプールは、決して大きくはないがロケーションがよい。
何といっても椰子の木の間に海が見えるのがいい。
リゾートを絵に描いたような感じだ。
子供たちは昨日に続き、もうすっかり浮き具無しで好き勝手に泳いでいる。
今や家族で一番泳ぎが下手なのは私だ。
今日の管理棟の担当はロラリー。
ウェンディより姉御肌で、しゃきしゃきしたタイプ。今朝初めて会ったとき、「あなたたちの予約を受けたのは私よ」と言っていた。
プールサイドの箱には、昨日から時々カナやレナが使わせてもらっている長いバー状の浮き具の他、じょうろやバケツ、くま手なんかも入っている。
「バケツやくま手はビーチに持っていってもいいわよ」とロラリー。
こっちに来てから貝拾い用におもちゃのバケツでも買うかな、と思っていたから大助かり。
このプールはガラス製品持ち込み禁止と書かれていたので、シュノーケルセットを持ち込むときには一応可否を聞いてみた。マスクはガラス製だから。
構わないという返答。
早速子供たちにシュノーケルを装着してみた。
さあ、お魚を見る練習をプールでしてみよう。
どう?
上手くいきそう?
「あっ」
レナが大空を指さした。
「何、あれ?」
真っ青な上空を鳥のように旋回しながら舞っていたのは、スカイダイビングのパラシュートだった。
プールサイドにはバーベキューセットが備え付けられていた。
オージーはバービーってBBQのことを言うんだっけ。
パパが夕食はあそこでバーベキューにしようかと言った。
賛成。
早速ロラリーに打診に行く。
OK?
せっかくだから明るいうちに楽しみたい。
海とプールに挟まれたテーブルに、サラダや飲み物を運んだ。
連休も終わり、今夜からは宿泊客は半減するらしい。
昨日の昼間プールで遊んでいた男の子たちも、もう帰ってしまったのか一日姿を見せなかった。
静かなプールサイド。
波の音だけ聞こえる。
食べ終わって、カナが明日のスケジュールを紙に書いた。
「午前中は動物園に行きます。それから町でおもちゃ屋さんに行きます。それから海で波乗りをします」
パパに予定を聞きながら、自分で書いたらしい。
動物園というのはワニ園だ。町はイニスフェイルのことだろう。波乗り? 海で遊ぶって意味かな。
誰にも邪魔されずのんびりバーベキューを楽しんでいたら、いつの間にか西空の雲が茜色になってきた。
パパ、もしかして今日、オーストラリアで初めてリゾートしたと思っているでしょ。
この辺りの建物にはみんな可愛らしいgeckoが棲んでいるようだ。
夜になると庭のライトの上や、部屋の天井に必ず一匹は張りついている。
虫を狙っているので、灯りのそばや天井といった場所を好むのだ。
今夜天井にいるのは、ヤモリにしてはなかなか大きめだった。
子供たちがそばで見たいと言うので、パパが追い回し、ついに天井から落とすことに成功した。
びたんっ。
冷たい石の床に平たいゴムでも落ちたかのような音が響いた。
「どこ?」
みんなで音のした辺りを探す。
椅子もひっくり返してみた。
見つからない・・・隙を見て、窓から逃げられちゃったみたい。
一日はしゃぎ回った子供たちが、パジャマ姿で占拠したメインベッドルームに籠もると、パパはカメラと三脚を手に外へ向かった。
レナはなかなか寝ない。
「ママ、ここにいて」と腕を掴んだきり離さない。
疲れているからもう寝なさいね・・・頭をなでているうちにようやく瞼も閉じたようだ。
お休み・・・。
起こさないようそうっと扉を閉める。
それからパパを追って外に出てみた。
おっと・・・暗くて見えなかったのでうっかりとスプリンクラー攻撃を受けてしまった。
パパはビーチにいた。
ビーチで三脚を立てて星を撮っていた。
私が近づいていくと声を潜めて
「あっちに焚き火をしている若者が居るぞ」
言われた方を見やれば、確かに砂浜の上に火を囲んでいる人たちがいる。
「何してるんだろうね、新興宗教かな」
「さあね」
水平線にはダンク島の灯り。
暗闇の中で波の音が昼間よりはっきりと聞こえる。
今夜も星夜だ。
六日目「クロコダイルファームとワイナリー巡り」に続く・・・