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ケアンズの南を目指せ **ビーチ&ファームステイ**

3.クレーターレイクス巡りと賑やかなディナー




 三日目 4月30日(土)


 朝、目が覚めて、開口一番、
 「天気は?」
 「えっ? 昨日と同じだよ」とパパ。
 ショッ~ク。
 いつも旅行で天候には恵まれることもあり、何となく心の中で明日は晴れるに違いないと信じていた。
 根拠無いけど。
 だからカーテンを引いて見事に灰色の空を見て、思いっきりがっくりしてしまった。
 あーあ。
 やっぱり雨期が終わっていないのかな。

 昨日の疲れもとれて、頭がすっきりしていた。
 昨夜シンディに、明日はどうするの?と聞かれて、パパはゆっくり起きて観光に出かけると答えていたので、のんびりしていていいらしい。シンディは朝の10時には出かけると言っていた。

 朝食はスープとパン。
 スープはアルファベット型のヌードルが浮かんでいるやつ。カナとレナは食べるより自分のイニシャルを拾うのに忙しい。
 食べているうちに少しずつ雲が切れてきた。
 昨日よりは天気もマシかな。
 いやいや期待しちゃいけない。昨日だって何度も青空はのぞいたが、ほとんど日は射さずすぐにまた雨が降ったりしていた。
 朝食の後、パパはカメラを持って散歩に出かけ、しばらくの間戻ってこなかった。

 子供たちは朝から「大事な人形がない」と大騒ぎ。
 昨日コテージに来たときはあったのだから、どう考えてもベッドルームのどこかだ。
 探す場所だって限られているんだし、見つからないわけないじゃない。
 なのにおかしいなぁ。引き出しの中にもベッドの下にもない。
 どこへいっちゃったんだろう。

 パパが戻ってきた。
 ズボンに泥が跳ねている。
 「ディヴィッドもフレンドリーでよくしゃべるよ」
 そう言って、昨夜無くて困った延長コードを投げてよこした。
 ディヴィッドにもらってきたらしい。
 えっ? ディヴィッドって、あのちょっと怖そうだったシンディの旦那様のこと?
 朝からどこ行ってたの?
 「バギーに乗せてもらった」
 えーっ、いいなぁ。ずるい。私も乗りたかったのに。
 以下、パパから聞いた話。
 少し日が射したのでコテージの周りを歩いて写真を撮っていたら、ディヴィッドがあらわれて、これからポンプ室に行くんだけど一緒に来ないか?と話しかけられた。
 そしていきなり四輪バギーに乗せられて農場のポンプ室へ。
 バギーはあの車庫の前に停められていたごつい乗り物だ。
 でこぼこのぬかるみの中をがんがん飛ばすので、ひたすら椅子の所にしがみついていたと言う。
 「怖かったよ」
 そんなに迫力あるんだ。
 羨ましいな。私もステイ中に乗せてもらえるかな。

 さて、今日の予定を決めていない。
 プランは二つ。
 昨日見そこねた、アサートン周辺をもう一度巡る。バリン湖、イーチャム湖、ティナルー湖、カテドラルフィグツリーなど。
 もうひとつは戻るのではなく西の奥地へ行く。レイベンスホーを経由してインノット温泉まで。
 天気を見て決めようと思っていた。
 昨日より晴れていればアサートンへ。
 景色を楽しむ気になれない空模様ならインノット・ホットスプリングスへ。
 といっても、どちらとはっきり言えない微妙な天気。
 「天気予報を見るとなんとなく今日は北へ戻るほど晴れているような気がする」
 「あと、インノットはその気になればミッションビーチ滞在中に行ってもいいし」
 というわけで今日の予定はアサートン。
 のんびりしていたのでようやく10時頃、アイカンダパークを出発することにした。



 上空の雲は心なしか昨日より薄い気がする。
 ターザリを経由してマランダまで16キロ。マランダから昨日とは逆の東側の道を北上して10キロほど行くと、イーチャム湖という湖があるはずだ。
 マランダの手前で青空が広がってきた。
 やったね。
 やっぱり私たちはツイている。
 曲がり角はそろそろかな・・・と思ったが、また行きすぎてしまった。
 まだこの先、ギリース・ハイウェイにぶつかったところでも、イーチャム湖へ曲がる道がもう一本あるはずだが、迷うといけないので引き返すことにしよう。
 レイク・イーチャムは、もう少し北東のレイク・バリンとあわせて、クレーターレイクス・ナショナルパークに指定されている。
 クレーターレイクというのは火口湖という意味だ。
 しかしテーブルランド自体が高地になっているとはいえ、湖とその回りにほとんど高低差は無く、これが火口だとしたらこのあたりに火山活動が起きていたのは気が遠くなるほど昔のことなのだろうと思った。
 ちなみに、これらの湖の元になった火山爆発があったのは、およそ一万年ほど前のことらしい。
 駐車場に車を停めて、降りたらすぐ目の前にイーチャム湖があった。
 真っ青な空の色を吸い込んだような深い青の湖だ。

 これは綺麗な場所だなぁ。
 やっぱり無理して昨日来なくて良かった。
 湖は晴れた日に限るよ。

 湖の畔には何人か観光客がいる。
 水着の人も。
 こっちの人は水が冷たくても平気で泳ぐから凄い。
 湖へ向かって傾斜したコンクリートの道がついている。そしてそれはそのまま湖の中へ続いている。たぶんボートを降ろせるようになっているのだろう。
 覗き込むと魚が沢山泳いでいるのが見えた。手でつかめそう。
 岸には頭の赤いブラッシュターキーがうろうろしている。
 熱帯雨林の木々に囲まれてぽっかりと開いた穴のような丸い湖は強く印象に残った。



 バリン湖はイーチャム湖より直線距離で4、5キロ北にある。
 本当にそれしか離れていないとは思えないほど空模様が違っていた。
 イーチャム湖を離れると不穏な雲が増えてきた。
 何とか青空の消えないうちに、バリン湖に着けますように。

 バリン湖の名を有名にしているのは湖を遊覧するレインフォレスト・クルーズと、レイクバリン・ティーハウスのデボンシャーティであると言っても過言ではない。
 到着したとき、ティーハウスの方から何人かのお客が戻ってくるのが見えたので、もしかしたらクルーズ船がついたばかりなのだろうかと思った。
 ガイドブックにはクルーズは1日5回と書いてあったが、時間はよく判らない。ひとつ逃すともう乗れないかと思って心配になった。
 パーキングは少し高いところにあり、湖とティーハウスを見下ろすようになっている。
 車から降りる間にも残された青空が雲で塗りつぶされていく。
 あっ、ユリシスだ。
 幸運の青い蝶、ユリシスがひらひらと舞って紫色の花にとまった。

 ティーハウスは二階部分がレストランになっていて、一階は土産物屋になっている。
 クルーズのタイムテーブルがあるかと思って一階に降りてみた。
 湖畔には大小二艘のクルーズ船が停まっていて、お客は誰も乗っていない。
 小さい方の船に、髭に覆われた船長がいて、何やらごそごそと準備している。
 これではいつ船が出るのかさっぱり判らない。土産物屋の奥にあるトイレを借りた後、クルーズ船の船長に聞いてみることにした。
 「すぐに出るよ」
 えっ、でも全然客が居ないけど・・・いいの?
 
 私たちが船に乗ろうとしたら、もう一組体格の良いカップルが乗り込んだ。お客さんは総勢6人。
 静かにクルーズ船は離岸した。
 大きい方は二階建てで二階部分には座席が並ぶだけで屋根がないが、私たちが乗った小さい方の船は、一階建てで屋根も付いている。
 クルーズが始まってすぐに雨が降り始めた。
 乗る座席のことでレナがぐずぐず言っている。ほとんど空席なのでどこでもいいのに。
 とりあえずママの隣に座らせて窓を開けてやった。
 湖面から突き出した枯れ木に黒いEgletが何羽もとまっている。長い首が鍵状に曲がった大きな水鳥だ。
 もう少し進むと、船長が「タートル」と教えてくれた。
 水面をのぞくと、何かが動いている。
 船長が餌を撒いた。
 本当に亀だった。丸い甲良の亀たちが次々と浮いてきて、餌を食べ始めた。
 この亀はノコギリ状殻亀。別名フエダイガメ。
 噛み付き癖があり、大きくなると30センチにもなるとか。
 餌につられてカモも来る。
 カモはすっかり船に馴れていて、舳先に飛び乗ったり運転席の窓から船室内に入ってきたりする。
 次に船が停まったのは岸のすぐ近く。
 「パイソン」と指さして教えてくれる。
 オーストラリア最大の蛇、アメシスティン・パイソン。
 紫水晶(アメジスト)の色をした大蛇で、岸でとぐろを巻いている。
 船が近づいても見向きもしない。甲羅干しをしているのか、こちらには興味がないようだ。
 ネズミ駆除に役立つことからオーストラリアでは保護されているという。

 このクルーズは湖の景観を楽しむとともに、ここに棲む様々な動植物を見せてくれる。小さな湖だが、45分と十分な時間がとられている。
 何か珍しい生物を見つけると、船を停めて舳先に立たせてくれる。
 今度はウナギだった。
 ウナギといえば普通は海で生まれるとされる。
 驚く無かれ、ここのウナギは海から滝登りをしてやってくるというのだ。
 バリン湖は海抜710メートル。
 本当に?
 そして10~15年を湖で過ごした後、再び海に戻り産卵するという。
 実際にウナギのライフサイクルには未だ謎が多いとされているが、海からはるばるこんな高地までやってきて10年以上も過ごすというのも何だか不思議だ。
 髭の船長がウナギのいる湖面にばらばらと餌を撒いたら、また先ほどの亀が沢山寄ってきた。

 最後はウォータードラゴン(水トカゲ)。
 もう時間が無くなったのかあまり近くまでは寄らなかったが、あそこにいると指さされた先を見れば、岸辺の枯れ木の上に確かにドラゴンの姿が。
 しましまのしっぽが子供たちにもちゃんと見えたらしい。
 「ドラゴン、いたいた」

 ほぼ湖岸を一周して、元のティーハウスまで戻ってきたら、ティーハウスのテラスから何人も身を乗り出しているのが見えた。
 何が見えるんだろう。
 「水鳥じゃない?」とパパ。
 パンくずでも撒いたのかも。
 今になって雨が上がってきた。
 でも青空はほとんど見られない。
 イーチャム湖とは違って、バリン湖の印象は灰色一色。

 時間は12時半で、そろそろお腹が空いてきた。
 「バリン湖ティーハウスで軽いランチにしたい」と私。
 「いいよ、で、何を頼むの?」
 もちろんデボンシャーティー。
 ところでこのときまで私はデボンシャーティーが何であるか知らなかった。
 紅茶の種類かと思っていた。
 実はデボンシャーというのは英国の地名で、デボン(Devon)州を指す。
 そこで伝統的に作られてきたタイプのクリームを使ったスコーンと、お茶のセットをデボンシャーティーと称するらしい。
 バリン湖のデボンシャーティーはバリン湖ティーハウスを創設したカリー一族が1920年からスペシャルメニューとしてお客さんに出しているもので、今やこの湖の名物の一つだ。
 「私とレナはこのデボンシャーティーでいいよ。パパとカナはサンドイッチにしたら?」
 レナは私に似て甘いもの大好き。カナはあまり甘いものを好まない。
 デボンシャーティーとサンドイッチを一つずつ注文した。

 出来上がるまでこの札を立てて待っていてねと、番号の付いた札を渡された。
 子供たちが外のテラス席が良いというので、湖に面した丸いテーブルに陣取る。
 パパがトイレに立っている隙に、ウェイトレスが注文した品物を運んできた。
 丸テーブルは足が不安定でぐらぐら揺れる。
 安定しないわね・・・と呟いたウェイトレスは次の瞬間目を疑うような行動に出た。
 卓上にあったスティックシュガーを取り、テーブルの足の床から浮いた部分に押し込んだのだ。
 ・・・。
 「これで大丈夫よ」
 だ、大丈夫って・・・。
 うーん、これぞオーストラリアの醍醐味?

 結局テラス席は寒すぎたので、パパが戻るのを待って室内の席に移動した。
 室内の四角いテーブルは安定していて、もうスティックシュガーを押し込む必要は無さそうだった。

 デボンシャーティーはジャムとクリームを乗せたスコーン三つとおかわりつきの紅茶だった。
 特にこのクリームの部分がものすごく美味しい。
 甘みは弱く濃厚なミルクの味がする。それでいて口当たりはさっぱりすっきり。
 レナに一つ、自分に二つと思ったら、レナに「もうひとつ」と、二つ目を取られてしまった。
 ホントにレナは甘いものに目がないんだから。



 レイクバリンを離れて、次はカテドラルフィグツリーへ。
 昨日見たカーテンフィグツリーは、一昨年にも一度観光しているが、カテドラルの方はまったく初めて。
 車を走らせ始めてから、湖畔に立つカウリの大木、ツインカウリ・パインを見るのを忘れたと思い出した。まあ仕方ない。
 カテドラルフィグはバリン湖から7、8キロ先。ギリース・ハイウェイから、ティナルー湖沿いの道へ入ったところにあるはずだ。
 巨大なダム湖のティナルー湖は、その周りを一周する道があるが、北側の半周は未舗装のダートだ。
 地図で見るとちょうどカテドラルフィグツリーまでは舗装されているようになっていたが、実際に行ってみると、最後の数キロはダートコースになっていた。
 ダートといっても道は悪くない。
 道は悪くないが制限速度は60キロ。
 未舗装路で60キロってオーストラリアでは現実的な数字なわけね。
 また少し雨が降り始めた。
 子供たちはツリーにまったく興味が無さそうだったので、駐車場に車を停めて大人が交替で見に行くことにした。

 まずはカメラを提げて私が先に。
 カーテンフィグツリーは木道だったが、こちらは森の中の小径といった風情。
 熱帯雨林を保護するため、ところどころ木の柵を設けて脇道に入れないようになっている。

 道の右手の木柵が、凸型になっていた。そこに立って何かを見るためのようだ。
 近づいてみるとそこに赤茶色の幹を持つ大きな木が立っていた。
 根元はブーメランを作れるようなカーブを描いている。
 立て札が立っていてred cedarと書かれていた。
 しげしげと見た後、さあ道の先へ向かおうとくるりと振り返ったら・・・
 背後の緑の中に、まるで冠を被ったような巨大な木がそびえ立っていた。

 こ、これがカテドラルフィグだ。
 言葉を失ってしまった。

 カーテンフィグツリーは二回に分けて見てしまったので、感動が半分ずつになってしまったとすれば、こちらは思いっきり衝撃を受けた。
 いやぁ、凄い。
 なんて荘厳な場所なんだろう。

 カテドラルフィグツリーは周りをぐるりと一周することができるだけでなく、中に入ることもできる。
 何しろカテドラル(聖堂)だから。
 カーテンフィグツリー同様、巨木に取り付いた寄生植物絞め殺しのイチジクが垂れ下がってできたものだ。
 自然の木の根で作られた堂内に入るのはドキドキした。大きさは人が二、三人入れる程度のサイズだ。
 辺りには誰もおらず、湿った森の中に鳥の声だけが響いている。
 この場所はとても気に入った。
 車に戻ってパパに「感動したから行ってみて」と即した。



 帰路は同じ道ではなく、西へ回りアサートンを経由することにした。
 子供たちとはおもちゃ屋へ行く約束をしていて、この辺りでおもちゃを売っていそうな町と言えばアサートンぐらいしか思いつかなかったから。
 それにケネディ・ハイウェイ沿いのザ・クレーターも見たかったし。

 走り出してすぐ、農場の脇の一本道で笑いカワセミを見つけた。
 ラジオの時報で有名なクケケケケという声でなく大きなカワセミだ。
 電線にとまっている。
 平たい頭に白い腹、目の回りにぐるりと黒い帯がアイマスクのようについている。
 鳴いてないけど間違いない。
 すぐに車を停めてもらってカメラを取り出した。
 3倍光学ズームごときで撮れるかな。
 撮れるといいな。
 つがいじゃ無いのかな?と思ったら、もう一羽が道の反対側を飛んできた。
 それを待っていたかのように電線のカワセミも飛び立った。
 車に戻った私にパパが一言「グッドジョブ」。

 ユンガブラの町を通過するときには少し青空が出た。
 カモノハシ・プラットフォームはこちらと書かれた表示が見えた。
 いつも気になるけどタイミングの合わないレストラン、ニックのスイスレストランも見えた。
 今回はもうバリン湖でランチは終えちゃったしね。

 ユンガブラからアサートンまでは西へ向かう直線道路。
 この辺りにはセブン・シスターズという景勝があって、たぶんこの道のどこかから見えるのではないかと思っていた。
 七人姉妹というのは七つのこんもりした丘のはずで、道沿いにどこか綺麗に七つ等間隔に並ぶビュースポットがあるはず。
 セブン・シスターズどこ?
 セブン・シスターズどこ?
 うわごとのように呟く私に、パパは呆れ気味。
 それらしい丘はいくつかあるのだが、なかなか綺麗に並ばない。
 それにひとつ、ふたつ、みっつ・・・六個しか無い。
 ここじゃないのかなぁ。
 今度は助手席から首を回して丘を数える私に、パパは車を停めてくれた。
 いまいちどれが七つ目か確信が持てないが、一応それらしいものを撮影。



 テーブルランド一番の町、アサートンに到着。
 この町は今日も厚い雲に覆われていた。
 昨日のように雨が降っていないだけマシだ。

 おもちゃ屋はあったが、アーケードのほとんどの店は土曜日で休業。
 パパは子供連れがおもちゃを買いに来るとしたら学校が休みの土日に来るもんじゃないのか?とぼやいたが、そこはオーストラリア。日本の感覚とは違う。
 仕方ないのでボトルショップでビールとワインを買って帰ることにした。
 酒屋は土曜でも開いていた。
 最近日本でよく見かけるオーストラリアワイン、カンガルーのマークのイエローテイルが沢山並んでいる。
 適当に10ドルぐらいのワインを選んだ。美味しいといいな。

 それからスーパーマーケットへ。
 昨日寄ったウールワースではなく、今度はIGA。
 おもちゃ屋が閉まっていたので、スーパーマーケットにおもちゃが売っていないかと思って。
 でも多少あるにはあるけど、値段の割に質がいまいち。
 ここでおもちゃを買うのはやめよう。
 子供たちはブーイングだったが母親権限で押し切った。
 またどこか別の町でおもちゃ屋を探してあげるからさ。



 うちの子供たちはドライブが嫌いだ。
 何度も後部座席から、
 「もうどこへも寄らないよね? もう真っ直ぐ帰るよね」と問いかけてきた。
 湖を見たり木を見たりしても全然面白くないと言うのだ。
 部屋へ帰って遊びたいらしい。
 あと少し、あと少しとごまかしながらここまで来た。
 あと一ヶ所寄ってから帰ると言っていたら、ついに二人とも寝付いてしまった。
 いつも思うけど、どうせ寝るならもっと早く寝ればいいのに。

 最後の観光スポット、Mt.ハイピパミー国立公園のザ・クレーターとディナーフォールズに着いたとき、すっかり後部座席は静かになっていた。

 例によってパパは「一人で行ってきていいよ」と言った。
 じゃ、交替で行こうと、まずはカメラを持って出発。
 ザ・クレーターには苦い思い出が。
 一昨年、パロネラパークアサートン高原をドライブして回ったとき、帰り道にこのクレーターを探して、結局何処にあるのかよく判らないまま素通りしてしまったのだ。
 そのときクレーターとはなんぞやと悩み、月面クレーターみたいなのがぼこぼこある光景を想像していた。
 今はアサートンの無料冊子などでとりあえずどんな感じのものがあるか知っている。
 二年越しの希望なのでぜひとも今回立ち寄りたいと思っていた。

 駐車場から歩き始めるとすぐに、カソワリー注意の看板が立っている。
 カソワリーというのは世界で三番目に大きい鳥。
 真っ青な頭部という派手さで、エミュー同様空は飛べない。
 北クイーンズランドの一部とニューギニアにしか生息していないという希少な鳥だ。
 こちらの動物園で見たことは何度もあるが、野生のものは滅多に会えないという。
 この辺りは出没率が高いのだろうか。
 カソワリー注意の看板には、ばったり出会ったらとにかく後ろに下がれとか、盾で防御しろとか物騒なことがイラスト入りで書いてある。
 出会いたいような、出会いたくないような・・・。

 森の中の簡易舗装された小径を歩いていくと、結構すれ違う人が多い。
 先ほどのカテドラルフィグツリーと違って、クレーターまでは700mぐらいある。さらに近くにディナーフォールズという滝もあるはずなのだが、こちらはさらに遠く、しかも道が途中で分かれていた。分かれ道は泥道だ。
 これは、両方見て戻るのは難しいだろうか。

 少し小走りで進むことにした。
 軽い下りになっていて、その先にクレーターがあった。
 人が落ちないように金属の柵がついていて、金髪の若い女性二人が下を覗き込んでいた。
 これがザ・クレーターか。

 何と形容したらよいのだろう。
 これもまた、バリン湖やイーチャム湖と同じ火口湖なのだが、驚くほど深い。
 ずぼっと地中に巨大な杭を突き刺して抜いた跡のような、深い巨大な穴がある。
 そのずっと下の方に濃すぎる抹茶のようなどろどろした緑色の水が溜まっている、そんな感じ。
 とにかく水面までかなり距離があるので、何か小石でも落としてみたくなる。
 奇怪な景観。
 Mt.ハイピパミー国立公園もバリン湖やイーチャム湖と同様、およそ一万年から一万五千年ほど前の火山活動でこれらの凸凹ができたとされる。
 その頃のテーブルランドはあちらこちらでどかんどかんと火山が噴火していたようだ。
 今はここもあまり山らしくない形状で、アクセスする道もほとんど急なアップダウンが無かった。

 さて、このクレーターの先にまだ道が続いていた。
 折れるように階段が続き、その先、舗装されていない山道が見える。
 何の表示も出ていないので不安だったが、たぶんこの道はディナーフォールズに続いているのではないだろうか。
 駐車場の側に確かここのコース案内が出ていた。
 もっとよく見てくれば良かったなぁ。
 せっかくここまで来たんだからディナーフォールズも見てみたい。
 ここからどのくらい時間がかかるかな。
 それにサンダルで行かれる道だろうか。
 ええい、ままよ。
 行かれる所まで行ってみようと、楽天家の私はあまり悩まずに歩き始めてしまった。

 道はだんだん細くなり、下へ下へ下っているようだ。
 耳をすませると滝の音が聞こえる。
 くねくねと何回か蛇行しながらかなり下ってきた。
 たぶん帰りはラウンドして入り口近くで二手に分かれたあの道に戻ることができるのではないかと思っているが、実はディナーフォールズに行く道ではなく別のトレッキングコースだったり、道に迷って引き返せなくなることだけが心配だった。
 道がところどころ分かれている。
 気の短い観光客が適当にショートカットしているうちに獣道みたいな枝道がいくつもできてしまったようで紛らわしいことこのうえない。
 まあ、とにかく下へ降りていけば川沿いに出るだろう。
 音が聞こえているから川まで行けばどちらかに滝が見えるに違いない。
 いい加減な性格だよね。

 最後の方はかなり急で、木の根が階段状になっていた。
 木立の向こうに川が見えた。
 ここはキュランダへ向かうスカイレールや観光鉄道からからも見えるバロン川の上流になる。
 川沿いに出ると、オージーの若者二人が互いに滝をバックに写真を撮りあっていた。

 それほど大きな滝ではない。
 三つぐらいの筋になって落ちている。
 アサートンテーブルランドで最もフォトジェニックな滝と言われるミラミラ滝ですらパパは散々なことを言っていたのだ。彼を連れてこなくて良かった。

 先ほどの若者が登っていったと思われる道を辿ることにした。
 川沿いの急な登りだ。
 足下が悪く、子供たちを連れてこなくて良かったなと思う。
 少し登るともう一つ滝があった。よく似た印象だが、こちらは茂みが邪魔で先ほどの滝ほどは接近できない。
 いったいどっちが本当のディナーフォールズなんだろう。
 うーん。やっぱり最初の下流の滝が本物のディナーフォールズかな。

 しゃかりきになって登ると、意外に早く最初の分かれ道に辿り着いた。
 走って駐車場に戻ると、レナはまだ寝ていたがカナは目を覚ましていた。
 「ディナーフォールズまでは道も悪いし、パパ好みじゃないと思うから、クレーターだけ見てくれば。こっちはなかなか面白いよ」
 「いいよ、後で写真だけ見せてもらうよ」
 もったいない。せっかくの奇観なのに。



 帰り道は心持ち飛ばし気味。
 クレーターから少しハイウェイを北へ戻った辺りにナッシュロード方面への近道があるにはあるらしいのだが、どんな道だか判らないし迷っても困るので、ミラミラ方面まで南下して幹線道路から戻ることにした。
 途中にルックアウトがひとつある。
 手持ちの地図ではケネディハイウェイ(今走っている道)からミラミラ方面へ曲がった直後に印がついていて、名前はMcHugh Lookout。
 しかし曲がって行けども行けどもそれらしいルックアウトは無い。
 おっかしいなぁ・・・。
 それまで青空がのぞいていた行く手が、またまた不穏な雲に包まれた。
 もうかなりミラミラに近づいた頃、いきなり目の前はすっぽり霧に覆われ、雨が降り始めた。
 「あっ、なんか今ルックアウトの表示が見えた」
 停まるまでもない。
 この濃霧の中、ルックアウト(展望台)で何が見えるっていうの?
 というか、この場所って・・・。
 霧の中で何も見えないが位置的にここはミラミラ・ルックアウトのような気がするぞ。
 もしそうなら、一昨年に来たことがあるよ。
 ・・・まさかと思うけど、McHugh Lookoutって別名MillaaMillaa Lookoutって名前じゃないか?

 といっても本当に何も見えなかったので、明日もう一度確認することにした。
 もうここまで来れば、アイカンダパークは目と鼻の先。
 ラスト、雨が降っちゃったけど、全体的には悪くない天気だった。イーチャム湖はもちろん、他でもドライブ中、結構晴れ間が見えて綺麗な景色を楽しめたから。



 アイカンダ・パークの上空は青空だった。
 既に夕方4時過ぎだったが、まだ空は明るい。
 レナをベッドに運んだ。カナはアサートンのスーパーで買ったチュッパチャップスをなめはじめた。
 今夜のディナーはシンディたちにお願いしてある。
 楽しみだなぁ。どんなメニューかな。
 ふっと、朝どうしても見つからなかった無くした小さな人形の在処が浮かんだ。
 昨日の夕方レナが泣いたのはどうしてだっけ?
 そうだ、ベッドサイドのテーブルランプに頭をぶつけたんだった。
 あのとき倒れたランプを元に戻したはず。
 ということは・・・。
 ベッドルームにとんでいって、ランプの足の下を見れば
 ビンゴ!!

 パパが母屋から戻ってきて、夕食は午後6時。場所はパティオの所だと教えてくれた。
 「母屋の中で食べることもできるし、このコテージに運んでも良いと言われたんだけど、あの菜園のあった庭で食べたいって言ってきた。母屋だと子供たちが騒いだりして気詰まりだし、コテージじゃ自炊と同じで雰囲気出ないだろ」
 うんうん、もっともだ。
 それでは、と、スーツケースから折り紙を取り出す。
 こんなときのために持ってきたのだ。和柄の折り紙と、折り方の本を。
 自慢じゃないが私は鶴を折るのが得意だ。
 どのくらい得意かというと、指の爪ぐらいのサイズの鶴だってすいすい折れるし、長方形の紙でだってちゃっちゃと折れるのだ。ハンカチでだって折れるよ。
 今までの海外旅行では鶴を折ってみせる機会など無かったので、今までこの特技が活かされることは残念ながら無かった。
 今回、ばっちり披露しようじゃないの。
 鶴だけでは芸がないので、折り方の本を見て、重ね箱を作った。
 こちらは馴れていないので時間をくってしまった。
 完成したのは全部で六つのパーツで作った三つの重ね箱と、大きさの違う折り鶴三羽。
 この折り紙がまた、ディナーの席で結構凄いことになるのだが、まあそれは話がそこまで進んでからのお楽しみ。

 ディナー一時間前になったのでレナを起こすことにした。
 あの娘は特に寝起きの機嫌が悪いので、起こしてすぐディナーという事態だけは避けたい。
 よほど眠いのか、起こしても起こしても起きない。
 しかも眠くて寝ぼけたままぐずぐず言っている。
 血糖値を上げれば目を覚ますかと思い、カナがなめていたチュッパチャップスをレナにも一本持たせた。
 寝ぼけ眼で棒つきキャンディーをなめ始めたレナは、なんと目を覚ますどころか飴を口に突っ込んだまままた寝てしまった。
 おいおい、虫歯になっちゃうよ。
 レナの目を覚ましたのは飴ではなかった。
 「窓の外に馬が居る」とパパ。
 カナが裏口から外へとんでいった。
 このコテージの裏には簡単な鉄条網の柵がついている。
 その向こうは放牧地だ。
 牛でも近づいてこないかな・・・と昨日から思っていたのだが、牛たちはみんな遠くにいるらしく、今まで何も来なかった。
 それが牛ではなく馬が来た。
 茶色の馬二頭だ。向こうもこちらが気になるのか、ちらちらと目線を送りながらどんどん近づいてきた。
 「レナ、おいでよ」と姉が呼んだ。
 レナも転がりそうになりながら走り出る。
 「馬だ、馬だぁ」
 二人に柵ぎりぎりのところでポーズを取ってもらう。
 「お馬さんと一緒に撮影してあげるからね」
 二人が気取ってポーズをとっていると・・・
 「うわぁ」
 気づかぬうち、すぐ後ろに来た一頭が、鼻先を二人の顔の側に出して、吃驚仰天。



 また少し雲が増えてきた。
 低いところの雲が茜色に染まっている。
 この辺りでよく見かける鳥が上空でホバリングしている。餌をとっているのかな。羽だけ羽ばたかせてぴたりと空中でストップしているところはお見事。
 6時になったので、母屋の方へ向かった。
 夕暮れの高原が黄昏色に変わってきた。

 パティオの所に行くと、白いテーブルに四人分のナプキンとカトラリーがセットされていた。
 「どうして四つなの?」とカナ。
 「パパとママとカナとレナの分でしょ?」とパパ。
 カナが不思議に思ったのは、座席は六つあるのにテーブルセットは四つしか無かったことらしい。
 しかし、この残る二つの席にもすぐに新たなカトラリーが運ばれることになるとはこのときは思いもしなかった。

 それに何故かパティオの隅にチュークが数羽、うろうろしている。
 そういえば、鶏の囲いの前を通りかかったとき、入り口が開けっ放しだった。このファームの人たちは、逃げてもあまり気にしないのかもしれない。
 しかし子供たちはそうはいかない。
 うろうろしている鶏を見つけると、反射的に追い回す。
 あっと言う間に、また七面鳥の逃げたクリスマスソングみたいになってしまった。

 メインテーブルから少し離れたところに、チェックのクロスを掛けたサイドテーブルがあって、ディヴィッドがここにアペリティフを運んでくれた。
 メインディッシュができるまでつまんでいてね、ということらしい。
 スライスしたチーズが二種に、スライスしたソーセージ、それからチーズおかきみたいなチップスと、中央に黒いドーナツ状の物体。ナイフが添えられている。
 黒く見えたのは、回りにぎっしりとクラッシュした黒胡椒がまぶされているからだった。ナイフで切ってみると中は白い。これもチーズのようだ。
 実は私、何よりチーズが苦手だ。
 スライスチーズはたぶん無理だろうなと臭いを嗅いでみて、やっぱり無理そうだったのでレナに食べてもらった。
 この黒いのは大丈夫かもしれない。ひとつ摘んでみる。
 あっ、これは大丈夫。水牛チーズのモツァレラか豆腐みたいに癖がなく、胡椒がよく効いている。
 パパがディヴィッドに「ビールか何かある?」と聞いたら、出せないんだという返答。
 「じゃ、部屋から持ち込んでいい?」
 と、いきなりBYO状態に。
 先ほどアサートンで買ってきたワインを開けて、これとソーセージを食べていることにした。

 そこへロッキーがやってきた。
 興味深そうにテーブルの周りを回っている。
 と、そこへディヴィッドもやってきてロッキーを窘めた。ロッキーが何か言うと、ディヴィッドは駄目だというようにロッキーを家の中へ連れていってしまい、何か言っている声が聞こえた。
 どうもロッキーは駄々をこねて、父親に叱られたようだ。
 うちの娘たちもしょっちゅうどうしようもない駄々をこねるのだが、どこの国でも同じなんだなと思った。ところで原因は何だったんだろう・・・。
 少ししてシンディがやってきて、うちのパパに何か言うと、テーブルにもう二つ、カトラリーをセットした。
 私は知らなかったが、セイラとロッキーもこの席で一緒に夕食をとってもいいかと聞かれたのだった。
 もちろん。喜んで。
 セイラとロッキーはうちの子供たちと一緒に食事したいと言ったのだった。
 意外な展開にびっくり。

 本日のメニューはハムと野菜だった。
 ハムったって日本のハムサンドに入っているようなぺらぺらのを想像してはいけない。
 7、8センチはあろうかという分厚い大きな肉のかたまりで、それが皿一枚に3枚ほど乗っている。とても美味しそうだ。
 付け合わせの野菜はインゲン、カボチャ、ニンジン、ジャガイモ。シンプルな味付けだけど野菜の甘みが活きている。
 ロッキーがみんなにパンを配ってくれた。
 レナはあまり食欲がなくいらない、と返したところ、これが気に入らなかったのかと今度は別のパンを差し出した。彼なりにとても気を遣っているようだ。
 セイラはパジャマ姿で時々咳をしている。
 咳き込む度にシンディが「駄目よ」と言うように庭の方を指さす。するとセイラは大人しく庭に出て、誰もいない方角に向かって咳をしていた。前に座っている人を不快にさせないよう、きちんと躾けられているのだ。
 「セイラはどうしたの?」とパパ。
 「風邪を引いているの」とシンディ。
 「レナも風邪を引いて、薬を飲んでいるんだよ」
 シンディが自分の子供たちのハムを賽の目に切ってあげていた。なるほどねぇ。食べやすく一口サイズにしてあげて、あとは自由にフォークで食べさせるのね。

 我が家の子供たちは旅先ではいたって小食だ。
 カナはパンばかりお代わりして食べて、レナは付け合わせのカボチャやジャガイモぐらい。
 美味しいからお肉も食べなよと言っても後込みしているようだ。
 ほらぁ、セイラやロッキーをご覧よ。いい子に残さず食べているじゃない。
 そしてもう食べられないと席を立てば、今度はじっと待っていることもできやしない。
 セイラとロッキーもある程度食べ終えたところで、子供たちに遊んでいてもらうために先ほど折った鶴と箱を取り出した。
 鶴はシンディに渡す。
 「クレバー!!」という評価を頂いた。
 重ね箱はセイラに開けてもらった。
 ひとつ、ふたつ、みっつ・・・開けても開けても中から出てくる箱にセイラもびっくり。
 ちょっとこちらが驚くほど、喜んでもらえた。
 他にも作れるわよ、と、折り紙を取り出して見せれば
 「作って作って」
 サイドテーブルに連れて行かれて、
 「ドッグ!!」
 「キャット!!」
 「ラビット!!」
 立て続けにせがまれる。
 ちょっ、ちょっと待って。
 鶴以外は参考書を見ないと作れないって。
 えーと・・・。
 ロッキーに犬の顔を作った。
 セイラには猫の顔。
 サインペンを取りだして、目と口を描いてあげると大喜び。
 カナは自分が作れるのはオルガンと椅子ぐらいなので横でそれを作っている。
 椅子があるのでセイラに今度はテーブルをせがまれた。
 いいよ。
 順番ね。
 パパも来て、何か紙飛行機を折ろうとした。
 でもパパの飛行機は上手く飛ばない。
 「レナが紙飛行機、作れるよ」
 そうなのだ。レナが唯一折れるのは紙飛行機。
 エアプレイン!! ロッキーの目が輝く。
 「飛行機、作って、もっともっと」
 今度は紙飛行機を折ることになった。
 セイラもカナもほしがるから、いくつもいくつも。
 「もっと」
 「もっとー?」
 いくつ折っただろう。八本の手が次から次へと要求するので、5機、10機、もう数も判らない。
 優雅なガーデン・ディナーのはずが、いつの間にか折り紙工作所になってしまった。それも、ディナーの続きを食べるどころか一息つく暇もありゃしない。
 辺りはすっかり日暮れて真っ暗だ。
 テーブルの薄明かりで細かい折り目を見るのはなかなかきつい。
 でも子供たちの嬉しそうな顔を見ると、とても楽しい。
 なんて素敵なディナー。
 隙を見て時々席に戻り、すっかり冷たくなってしまったハムを食べ続ける。
 いつの間にかセイラとロッキーの座っていた席にはディヴィッドとシンディが座り、パパと一緒にグラスを傾けている。ディヴィッドはあまり飲まないが、シンディはうわばみだ。
 そうしている間にも、テーブルの上空は色とりどりの紙飛行機が右に左に飛びまくり、ロッキーが出してきたのか昼間肩に乗ってくれた二羽のインコも遊びに来ていた。
 もう、めっちゃくちゃ。
 おっかしいの。
 紙飛行機を持って縦横無尽に走り回る四人の子供たち。
 言葉なんか通じなくてもまるで不自由ないみたい。
 最後にシンディがデザートを運んできてくれた。
 苺ソースを惜しげもなくかけた大きなチーズケーキ。
 「この苺はそこの菜園で育てたものなの」とシンディ。
 チーズ苦手でもこのケーキは本当に美味しい。ほっぺたが落ちそうなほどデリーシャス。
 この夜を忘れない。
 絶対に、忘れない。



 食べきれなかった分は、包んで部屋に持ち帰ることにした。
 明日からはずっと自炊。
 冷凍しておいて、次のアコモに着いたら有り難く頂こう。
 「グンナイ」
 楽しい夕げの後、シンディ一家に別れを告げて、カナとレナの手を引いてコテージに戻ろうとした。
 母屋の灯りを離れ、一歩暗がりに出たら、
 「うわぁ・・・」

 言葉を失うほどの満天の星空。

 町を遠く離れて、他に人家の影もない広大な農場で、今私たちは降るような星空を見上げている。
 宇宙は遠くにあるのではない。
 手を伸ばしたら、もうそこは空なのだと。
 地平線から地平線までの本当の180度。
 全てきらめく星に埋め尽くされて。
 天の川が見えるなんてものじゃない。
 天の川がどこか判らないほど星がある。
 今までにも綺麗な星空はいくつも見てきたけれど、こんなにピュアな星空は初めてだ。
 広い宇宙で地球がとても小さいものに感じた。
 地球に生まれたことの孤独を感じた。

 地平線近くに星が流れた。


四日目「アイカンダ・パークに別れを告げて」へ続く・・・
 
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