ポートダグラス楽園日誌2004-2

2.モスマン渓谷


 二日目 7月15日(木)


 まだ暗いケアンズ空港にタッチダウン。
 カナは目覚めたが、レナは寝たまま。
 去年の教訓から、空港を出るまでは急いだ方が吉と知っている。入国審査、検疫と、早朝の空港は長い行列になるのだ。
 座席が奥の方だったので努めて準備を早くする。パパが荷物とカナを引き受け、ママはリュックを背負ってレナを抱きかかえる。走りはしないけれど、早足で、ひとり、またひとりと抜いて、入国審査に付く頃はかなり前の方に来ていた。

 幸いまだ列はできていなかった。すぐに審査を受けられる。
 振り返るとすぐ後ろからはもう行列になっている。飛行機に乗っているのは大した人数ではないのだが、審査をかなり丁寧にやっているので、どうしたって列が出来ると進みはのろい。
 スーツケースもそんなに待たずに出てきた。
 検疫はもっと早かった。
 オーストラリアは持ち込みに厳しいことで知られる。他の大陸や島から動植物を持ち込まれると固有の生態系に多大な影響を及ぼす。食品だけでなく、麦わら帽子や土の付いた靴などもチェックを受ける。常備薬は仕方ないが、キャンディーや飲み物などのどうでもよい食品類は、いっさい持ち込まないのが賢明だ。
 去年は一応、口頭でも食品類を持っていないか確認されたが、今年はまったくノーチェックだった。薬だけはすぐ出せるようジップロックに入れて別にしていたが、それすらも確認しなかった。それでも中にはスーツケースを全部開けられている人もいたので、態度やタイミングに寄るのだろう。何もかもあっという間に終わり、空港のロビーに出ると各々のツアー名を記した紙を掲げた現地担当者たちが、ずらりと並んで待っていた。

 私たちを待っていたのはいかにもオージーといった体格の良い明るい男性だった。
 去年、A社のツアーで行った私たちは、同じ旅行者の他のツアー客と一緒にまとめてケアンズ市内のホテルに運ばれて、長々とオプショナルツアーやショッピングなどの説明を受けさせられた。
 だからツアーという物はすべからくそういうものだと思っていたのだが、今年お願いしたツアー会社B社の担当オージーLさんは開口一番「タバコが吸いたいですか?」
「もちろん」と、ヘビースモーカーのパパ。
「よくがんばりましたね。外に出ましょう」と明るく誘い出し、ここで時間をつぶしながら他のツアーを待つのかと思えば、
「今日のポートダグラス行きはあなたたちだけね。私は40人を相手にするのも一組を相手にするのも給料は同じ、今日はあなたたちだけで助かります」と、いきなり送迎車に案内してくれた。

 スーツケースをちゃっちゃと乗せ、空港を出てキャプテンクックハイウェイを走り出す。その間20分もかかっていないだろうか。ケアンズ経由で半日かかる覚悟でいた私たちにはうれしい誤算だった。
「説明はポートダグラスまでの道々行いますね」
 ということは、朝の9時過ぎにはホテルにチェックイン?
 実は去年のツアーでは、なんだかんだでポートダグラスに着いたのはお昼頃だった。ツアーには有料のオプションでアーリーチェックインなどもあったが、ばからしくて使う気になれなかった。
 今年のツアーには自動的にアーリーチェックインがついていたのだが、どうせ昼にポートダグラスに着くのでは意味がないなと思っていただけに、本当に朝からホテルには入れるのはちょっと嬉しかったりする。

 飛行機の中で、朝のケアンズは雨だと聞いた。
 乾期まっただなかなのに雨? 憂鬱な感じ。
 けれど降り立った空港は既に雲が切れていて、ハイウェイを行くうちに空はだんだん晴れてきた。
 雲は山の方にかかっているだけで、海からの風が青空を呼んでいるようだ。
 スミスフィールド、ポートダグラス、エリスビーチ、ハートレイズ・・・。レックス・ルックアウトの手前、朝日が海から昇り始めた。ずっとずっと待っていたケアンズの朝日だ。

 急にカナがお腹が痛いと言い始めた。
 Lさんにお願いして車を少し停めてもらう。カナは前日の朝にも少しお腹が痛いと言っていた。心配。
 少し休んで再び車の中へ。
 早くホテルに入って一休みしよう。


 ホテルに着いて、まずカナをトイレに連れていった。
 リッジスのロビーはかつて知ったるだ。どこに何があるか、だいたい知っている。
 お腹の痛いのが治ったというカナを連れてロビーに戻ると、Lさんが両手にお砂場セットを下げてやってきた。色違いの小さなバケツに、スコップやくまでのセット。島へ行く前にはどこかで買おうと思っていたのでこれは嬉しい。さっきこのツアーに参加する人にもれなくプレゼントだったビニールバッグ、ミネラルウォーター、日焼け止め、紅白ワインのミニボトルは既に受け取っている。これはサービスなんだろうか。

 サービスと言えば、実は我が家には他にも希望があった。
 到着日の夕食はミールクーポン付きでホテルのディナーが食べられるのだが(それ以外はコンドミニアムで自炊)、疲れて子供たちもぐずぐず言っている到着日になんか気取った夕食は食べたくない。別の日に変えてもらいたい旨伝えると、Lさんは快く承知してくれた。

 Lさんに見送られてホテル内のシャトルでヴィラ棟へ。
 リッジスリーフリゾート・ポートダグラスはホテル棟とヴィラ棟があり、敷地が広いのでローカルバスのバス停もそれぞれ別にある。
 今回の部屋は一番外側で、植え込みの向こうにすぐバリーフーリートラムウェイの線路があり、平行してポートダグラスのメインストリートが走っている。
 バリーフーリー鉄道は去年はちょうど今頃走っていたようだが今年はもう走っていないという。それを楽しみのひとつにポートダグラスに来たのに本当に残念だ。
 もし走っていたら、絶対二階の部屋の窓からかわいらしい汽車ぽっぽが見えただろうに。

 部屋についてすぐ、Lさんから電話が入った。
 「お部屋はお気に召しましたか?」
 なんて細かい気遣い。

 とりあえず朝から何も食べていない。
 4時頃機内で起こされて、豪州は食料が持ち込めないし、空港からそのままホテルに着いたから、家族四人空きっ腹だ。
 ヴィラ棟にある売店で何か調達することにした。
 小さな店でたいした物はないが、パンとリンゴジュースを買っていると、
「鳥だ!!」と子供たち。
 売店の中に黄緑色の小鳥が迷い込んできた。ばさばさと店内を飛び回って、開いた窓から飛んでいった。ああびっくりした。

 ホットドッグ用のゴマのついたコッペパンを気に入ったカナは、一人で二つ半ぐらい食べてしまった。
 レナはあまり食欲がないよう。
 10時からレンタカーの予約を入れているので、パパが一人、ローカルバスでポートダグラスの町中へ行って来た。
 お昼前には何もかも揃って、さあこれからどうしよう。



 12時、ポートダグラスを出て、ハイウェイをケアンズとは逆方向へ。
 15分で次の町、モスマンに着く。ここからさらに直進すれば、やがて橋のない川ディンツリーリバーを渡り、熱帯雨林と珊瑚礁の出会う場所、ケープトリビュレーションに至る。
 けれど今回はモスマンで山側へ入ってみよう。
 ここにはモスマン渓谷がある。意外にもモスマン渓谷にはまだ行ったことがなかった。遊歩道や泳げる清流があるということは知っていたが、子供の喜ぶようなところなのか、駐車場はどのくらいの規模なのか、まるで判らなかった。

 モスマンはごく小さな田舎町で、ポートダグラスからほぼ直進、両側に並ぶ背の高いサトウキビの畑を見ながらハイウェイを走り、ぱらぱら民家があるなと思えばもうそこが入り口だ。
 左手にウールワースが見えたら左折する。
 ちょうどサトウキビ運搬列車の線路も同じように左へ折れている。
 途中、サトウキビを積む古びた黄色いコンテナ車が連なっているのが見えた。

 道は途中から細くなるが全面舗装路。さとうきび畑が終わるといつの間にか辺りの景色は熱帯雨林。覆い被さるように緑が深くなる。
 7キロほど行くと、道の両側にずらりと路上駐車している車たち。
 ここは駐車場が無いのだろうか・・・。
 心配しながら先を進むと、そんなことは無かった。ちゃんと駐車場があり、満車に近かったが多少は空いたスペースもあった。
 それにしてもモスマン渓谷、人気なんだなぁ。

 カナとレナに降りるかと聞くと降りたくないと言う。
 せっかく来て、降りないと言われても・・・。
 アイスクリームを売るワゴン車があった。アイスクリームを食べる?
 ところがアイスクリーム屋のアイスクリームは、カナの希望のストロベリーが無くて、バニラだけだった。
 甘い物好きのレナは喜んで食べるけど、頑固なカナはどうしてもストロベリーが良いと言ってすねたままだ。どうしてそうなの、あなたは。

 そんなカナがしぶしぶ降りて、目を奪われたのはいきなり目の前を横切ったターキーの姿だった。
 それに木の上にはまるまると太った別の小鳥もいて、近づいてもあまり逃げない。
 これはすごいね。日本じゃ考えられない。

 遊歩道を行けば、まあ大勢の人が歩いている。ひっきりなしに人とすれ違うし追い越されたりする。でも日本人の姿は無い。
 レインフォレストの中を光を浴びながら少し歩くと、川辺に出た。
 なんとこの涼しいのに泳いでいる人が結構いる。
 信じられない。

 もう少し近づいて大きな丸い石に登り、川の中をのぞき込んでみればこれまたびっくり。水底を透かすほど透明な流れの中に、ゆらりゆらりと大きな魚が何匹も何匹も泳いでいる。

 カナを呼んだらカナも吃驚して、それから彼女はいきなりノートとペンを出してスケッチを始めた。
 魚とそれを見ている自分を描くのだそうだ。

 ふいに魚たちに動きが見られた。
 オージーの若い男性二人組が、岩の上からパンをまき始めたのだ。
 魚たちはみるみる集まってきた。
 巨大なニジマスみたいなの、ヘビのようににょろりとしたウナギかウツボみたいなの、底の方にいる黒っぽいのはナマズみたい。
 泳いでいる人たちはまるで魚を手づかみできそうだ。

 モスマン渓谷がこんなに面白い場所だとは知らなかった。
 カナとレナは水着を持ってくれば良かった、泳ぎたかったと言っていたけど、きっとそれは寒すぎ。

 帰り道、ポートダグラスロードに入り、ポートダグラスの動物園レインフォレストハビタットの隣にあるIGAというスーパーマーケットに寄った。
 ここはちょっと日本のダイエーみたいな感じで、いろいろなメーカー品の偽物みたいなパッケージのオリジナル商品が展開している。前に一度アサートン店を利用したことがある。
 ここで一週間分の調味料や生活必需品、二日分の生鮮食料品を仕入れて、リッジスに戻ってきた。

 レナは車の中で寝てしまったのでそのままベッドに運び、カナと大人だけで早い夕食を食べた。
 それからカナはパパと二人で海岸へお散歩。
 ポートダグラスのフォーマイルビーチ。白砂の海岸が4マイルも続く。
 カナはそこで待望のオレンジフッテッドスクラブフォウルを見つけたよ。
 この鳥に会うためにカナはオーストラリアに戻ってきたのだ。
 去年の旅行で一番印象に残ったこと、それはこのオレンジフッテッドスクラブフォウルだったから。
 
三日目「熱気球で大空へ」へ続く
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